法エールVol.169

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ご挨拶

新年あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりました。本年もよろしくお願い申し上げます。

さて、弊法人では、毎年、年度方針発表会を行っております。弊法人の今年の年度方針は、「寧静致遠(ねいせいちえん)日々の努力で目的を達成しよう」です。この寧静致遠とは、中国の古典「諸葛孔明伝」からの出典で、諸葛孔明が自分の8歳の子供に言った言葉だということです。意味は、遥か遠くにある目的も、丁寧に真心を尽くし、冷静に落ち着いた気持ちをもって継続的に取り組むことで、必ず達成することができる、ということです。今年は、この年度方針を達成すべく全社員で行動していきます。

いまだコロナ感染が増加する中、一部以前とは異なる生活様式となってきております。今年は、所有者不明土地に関連する民法等の改正や相続土地帰属法の施行等があります。様々な法律が改正される中で私達も変わっていく必要があります。例えば、施設に入所されている高齢者の方は、コロナの影響で私達法律家が施設に入って相談を受けることが難しい状況ではあります。しかし、そのような中でもテレビ電話の活用等や施設の方との連携強化等を図りながら、法的情報を一人でも多くの方に提供し続けていく必要があります。一つひとつの業務を寧静をもって行い、人間性を向上させていきながら、よい状況を創っていければと思います。

法エールは、今年で14年目を迎えます。毎回、法エールをお読みいただきましてありがとうございます。今年も、少しでも有益な法的情報をご提供できるように取り組んでまいりますので、何卒宜しくお願い致します。

 

それでは、今月の法エールよろしくお願い致します。

(代表社員 井上 勉)

 

~任意後見制度~

超高齢社会が続く日本は、2025年における認知症高齢者の割合は、高齢者の約2割(675万人から730万人)と予想されています。そのような中、認知症高齢者を支援する制度の一つである成年後見制度は、制度開始から22年以上経過しているにも関わらず、令和3年12月末日時点の制度利用件数は総数で24万件弱と、その利用はいまだ浸透しているとは言えません。このような状況から、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が平成28年に施行され、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するとされています。

令和4年3月25日には、第二期成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定され、国は令和4年度から令和8年度まで、計画に基づいて施策を実施することになります。その計画の中で優先して取り組む事項の一つが、「任意後見制度の利用促進」です。

そこで今回から、任意後見制度の概要とその手続きの流れ等について説明します。

 

任意後見制度とは

任意後見制度は、認知症や障がいなどで、将来本人の判断能力が不十分となった後に、本人に代わってしてもらいたいことに備えるための制度です。

任意後見制度を利用するためには、本人の判断能力があるうちに、自己の生活、財産管理や介護サービス締結といった療養看護に関する事務の全部または一部を信頼できる方に依頼し、引き受けてもらうための契約を結びます。

この契約を任意後見契約といい、公正証書によって作成される必要があります。依頼する本人を委任者、引き受ける方を任意後見受任者(後に、任意後見人)といいます。

その後、実際に本人の判断能力が低下し、家庭裁判所より任意後見人を支援・監督する任意後見監督人が選任されることにより、契約が発効し、任意後見人が本人から引き受けた事務を行うことになります。

 

任意後見制度と法定後見制度

よく聞く言葉で成年後見制度がありますが、任意後見制度は成年後見制度のうちの一つです。成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の大きく2つの種類があります。任意後見制度は、前述のとおり判断能力が不十分になる前に、本人が自分の意思で将来の任意後見人を決定できる制度です。

一方で法定後見制度は、判断能力が不十分になってしまった後に、本人、一定の親族又は行政が家庭裁判所に申し立てを行い、後見人を選定してもらう制度です。

 

任意後見制度のメリット

任意後見制度では、制度を利用するかどうか、任意後見人を誰にするのか、どんなことを依頼するのかといったことはすべて本人が決めることができます。そのため、判断能力低下後においても、判断能力が低下する前と同様に、本人の希望にそった生活を送ることができるというメリットがあります。一方で、法定後見の場合は、判断能力が不十分になった後に家庭裁判所によって後見人が選任されるので、その後見人は本人がどのような希望を有していたかわからないことも多く、必ずしも本人の希望に応じた手続きが行われるとは限りません。

また、身寄りがない方にとっては、将来の施設入所に備えて任意後見契約を結んでおくと、仮に判断能力が低下したとしても、任意後見人が施設入所契約を代わりに行うことができます。

なお、最近では、判断能力が十分であったとしても、身寄りのない方が施設の入所を希望するときは、任意後見契約を締結していることを必要とする施設もあるようです。

 

判例紹介

先行者の暴行に途中から関与した事例と刑法207条適用の可否

最高裁判所第二小法廷 令和2年9月30日判決

事案の概要

A及びB(以下、「Aら」とする。)は、被害者に対し暴行を加えることを共謀した上、平成29年12月12時9時23分頃、被害者のいるマンションの部屋に突入し、被害者に対し、カッターナイフで切りつけた他、殴る蹴るなどの暴行を加えた。

Aらの突入の約5分後、同部屋に踏み込んだ被告人は、状況を認めるやAらに加勢しようと考え、被害者に暴行を加えることについてAらと暗黙のうち共謀を遂げた。その後、同月13日0時47分頃までの間に、同部屋で、被告人及びAは、脱出を試みた被害者を連れ戻し、こもごも、背部、腹部等を蹴ったり踏み付けたりする暴行を加えた。また、Aらは、被害者に対し、灰皿等で頭部を殴る等さらに暴行を加え、Aが千枚通しで被害者の大腿部を複数回刺した。

これら一連の暴行により、被害者は、全治約1か月の肋骨骨折をはじめ、上口唇切創、大腿部刺創等の傷害を負った。なお、肋骨骨折及び上口唇切創については、いずれの段階の暴行により生じたのか不明である。また、被告人が加えた暴行は、肋骨骨折の傷害を生じさせる危険性があったが、上口唇切創の傷害を生じさせる危険性があったとは認められない。

検察官は、被告人とAらに事前共謀があった旨を主張したが、第一審判決は、被告人が部屋に突入した後、Aらと暴行を加えることにつき共謀を遂げたと認定した上で、肋骨骨折、大腿部刺創及び上口唇切創については、「その傷害を生じさせたものを知ることができないとき」に当たるとして、刑207条を適用した。被告人側が控訴したところ、控訴審は、大腿部刺創につき被告人の加担後の暴行により生じたものと認定したうえで、肋骨骨折及び上口唇切創については、刑法207条を適用した原判決の判断を是認した。被告人側が上告した。

※刑法207条・・・二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。

 

裁判所の判断

「(中略)同条(207条)の適用の前提として、検察官が、各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び(中略)同一の機会に行われたものであることを証明した場合、各行為者は、自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り、傷害についての責任を免れない」として、上告棄却。

 

コメント

刑法207条は、同時犯としての暴行による傷害について、処罰の特例を定めたものであり、同時犯を一定の場合に共同正犯とみなす規定で、いわゆる「同時傷害の特例」と言われるものです。本件は、先行者の暴行に後行者が共謀の上、途中から関与したが、被害者が負った傷害が共謀成立前の暴行によるものか、成立後の暴行によるものか明らかでない事案で、このような場合、本条の適用の可否の判断が分かれるところ、最高裁として初めて同条の適用を認める判断を示しました。

ただし、上記判例は、被告人の加えた暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであるときに限られると解するのが相当であるとし、被告人の加えた暴行に上記危険性がないときには、その危険性のある暴行を加えた先行者との共謀が認められるからといって、刑法207条を適用することはできない、とも判断しています。

 

司法書士日記

私は、令和2年に司法書士試験に合格しており、昨年末、長崎で行われた九州同期会(九州地区で令和2年に司法書士試験に合格した者の集い)に参加してきました。

人数は10人ちょっとでしたが、九州各地、また、東京から駆けつけた人もいました。

熊本から長崎へ、カモメを見ながら船で揺られ到着。

まずは牡蠣小屋で牡蠣を食べ、さらに街へ繰り出しおいしいご飯を食べに行き、1日目の最後は稲佐山の展望台で100万ドルの夜景を眺める。

2日目はグラバー園と中華街。

同期のみんなと長崎を満喫してきました。

私が試験に合格した年はコロナ禍真っ只中でなかなか集まることが難しく交流が少ない年でしたが、今回のように集まれる機会があることがとても嬉しかったです。

全国旅行支援クーポンを使い、おいしいカステラのお土産も買えてとても満足な2日間でした。

龍田事務所 司法書士 戝津 麻弥

 

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