震災に関する法律相談 Q&A

今月も前回に引き続き、震災に関する法律相談Q&Aです。今回はQ6から説明します。

新しい法律が成立したり、取扱上の便宜で法律とは違った結果となる場合もありますので、その点はご了承ください。

Q6. 修理中であったり、避難勧告が出たりして、借家に住めない場合にも、家賃の支払をしなければなりませんか。

  1. 賃借物の使用が客観的に不可能である場合には、家賃の支払義務は生じないと考えられます。

 

Q7. 災害により、従兄弟が行方不明になっていました。従兄弟には財産があり、その財産をどのように管理すればよいのでしょうか。

  1. 従兄弟に、法定代理人(親など)がいる場合、あるいは、自ら財産管理人を定めていた場合にはその者が、財産管理をします。それ以外の場合には、申立てにより家庭裁判所で不在者財産管理人を選任します。

なお、不在者財産管理人が選任されるまでの間に、財産管理を始めてしまった場合には、不在者財産管理人が選任されるまで、その管理行為(事務管理といいます。)が明らかに本人に不利な場合等を除いて、管理行為を継続しなければなりません。災害時には、緊急事務管理が成立する場合が多いと思われますので、仮に管理行為によって行方不明者の財産に損害が発生しても、事務管理者に悪意(本人を害する意図がある場合)または重過失がなければ、免責されることとなると思われます。

 

Q8. 災害により父親が行方不明です。父の財産について、相続は開始するのでしょうか。

  1. 認定死亡や失踪宣告が下されていれば、相続は開始しますが、そうでなければ、相続は開始しません。

「認定死亡制度」とは、震災・海難・山津波・洪水などの事変に遭遇した者は、死亡したことは確実であるが、死体が発見されないなどにより死亡が確認できない場合、取調べをした官公署が、死亡地の市町村長へ死亡報告をし、これによって本人の戸籍簿に死亡の記載を行う制度です。大規模な大震災ともなれば、認定死亡がなされることが多いと思われます。

「失踪宣告」は、普通失踪と危難失踪の2種類ありますが、震災等を原因とする場合には、危難失踪に該当すると考えられます。震災・津波等の死亡の原因となる危難に遭遇して生死不明の状態が1年以上継続した場合には、家庭裁判所に失踪宣告の申立てを行うことができます。失踪宣告が行われると、危難の去った時に死亡したとみなされます。

なお、失踪宣告が行われても、行方不明者の権利能力を剥奪するものではありません。あくまで、行方不明者が死亡したものとして相続を開始させるなど、死亡したのと同様の効果を生じさせるものです。ですから、死んでいたと思われる行方不明者が実は生存していて、どこかで物品の購入契約等の法律行為を行うことに問題はありません。

 

Q9. 災害により、1人暮らしの隣人が死亡してしまいました。隣人の財産管理や相続はどのようになるのでしょうか。

  1. 隣人に相続人がいるのであれば、相続人が財産管理をします。相続人がいることが不明の場合には、申立てにより家庭裁判所が選任した相続財産管理人が、相続財産の管理と清算を行います。

 

Q10. 地震で家屋が倒壊、損傷したのですが、住宅ローンが残っています。住宅ローンについて、金利の減免や支払の猶予をしてもらうことはできるのですか。

  1. 法的に、金利の減免や支払猶予を受けられるわけではありません。しかし、金融機関において、内部基準を設けて、これらの措置を講じている場合もあります。参考までに、新潟県中越地震の際の住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)における既存債務の返済方法の変更について簡単に述べてみます。

対象者は、(1)商品、農作物その他の事業財産等または勤務先が損害を受けたため、著しく収入が減少した人、(2)融資住宅が損害を受け、その復旧に相当の費用が必要な人、(3)債務者または家族が死亡・負傷したため、著しく収入が減少した人のいずれかに該当し、被災後の収入が公庫で定める基準以下となる見込みの人です。

罹災割合(被災の程度)(災害発生前1年間の収入額に対する、①災害発生後1年間の減収予定額と②融資住宅等の復旧に要する自己資金と③負傷等の治療費の合計額の割合)によって、返済方法の変更を行っています。

  1. 罹災割合が30%未満の場合
    払込みの据置または返済期間の延長・・1年、据置期間中の利率の引下げ幅・・・0.5%
  2. 罹災割合が30%以上60%未満の場合
    払込みの据置または返済期間の延長・・2年、据置期間中の利率の引下げ幅・・・1.0%
  3. 罹災割合が60%以上の場合
    払込みの据置または返済期間の延長・・3年、据置期間中の利率の引下げ幅・・・1.5%

 

Q11. 自宅に屋根の修理業者が来て、震災者支援のため格安の値段で屋根の修理をするといわれ契約をしましたが、後で調べると相場の5倍の値段だったことが分かりました。契約を解除することができますか。

  1. 特定商取引に関する法律(以下、「特定商取引法」といいます。)により、修繕契約の内容に不満があれば、同法で要求される書面を受け取った日から8日以内であれば、その理由如何にかかわらず、「クーリング・オフ」の権利を行使し、契約を解除することができます。

クーリング・オフを行使できない場合でも、詐欺取消し、消費者契約法違反に基づく取消し等が考えられます。

被災された方やお知り合いの方で、法律相談をご希望される方は、司法書士会、弁護士会、法テラス等をはじめ、当法人でもご相談をお受けしておりますので、ご連絡ください。

[参照]Q&A災害時の法律実務ハンドブック新日本法規出版