法エールVol.170

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ご挨拶

去年の秋ごろから急激な円安となり、一時1ドル150円台となりましたが、現在は130円台を推移しております。円安となると、日本から海外に輸出する場合に、海外の方は日本製品を安く購入することができるので、輸出産業にはメリットがあります。

日本の輸出産業というと、これまでは製造業が主でしたが、最近は、農林水産業でも輸出が増加しているとのことです。2022年の農林水産物の輸出額は、10月末時点で1兆1218億円となっており、2012年の輸出額が4497億円だったのと比べると3倍近い伸びとなっております。日本の農林水産物の評価は世界の中で非常に高いらしく、高価格で取引されているということです。

しかし、熊本の農家の方にお話をお聞きすると、なかなか上記のように輸出等で利益を上げるところまではいっていないようです。当法人で相続のご相談をお受けしていると、田畑に関するご相談を受けることがあります。例えば、被相続人が農業をしており田畑を所有していたが、その相続人である子供は農業をしておらず、田畑を処分したい。しかし、引き取ってくれる方がいないが、どうすればいいかというようなものです。熊本県では、熊本県農業公社にて、田畑の売買の仲立ちをしておりますが、それでも引き取り手が決まらないことがあるようです。

世界的にみると、人口は増加の一途をたどり、食糧需要が増大し、世界全体の食糧貿易額は増加しています。その一方で、日本の農家は、高齢化で後継者がおらずに離農する方が多いと聞きます。熊本の農業がこれまで以上に成長するためには、海外に目を向け、若い人たちが農業により魅力を感じてもらえるようにする必要があると思います。規制緩和等も必要になります。そして、田畑に米や野菜がたくさん育っている状況となることを祈念しつつ、当法人でも手続き関係でお手伝いできるように研鑽を重ねてまいります。

 

それでは、今月の法エールよろしくお願い致します。

(代表社員 井上 勉)

 

~任意後見制度~

前回より任意後見制度について説明しています。任意後見制度の利用促進は、現在政府が進める第二期成年後見利用促進基本計画の中で優先して取り組む事項とされています。

今回は、任意後見制度を利用する際の流れについて説明します。

 

手続きの流れ

任意後見受任者を決める

任意後見人になるためには資格は必要ありません。家族や親戚、友人、司法書士や弁護士等のほか、法人と契約を結ぶこともできます。また、任意後見人は複数選ぶことも可能です。

ただし、以下に該当する人は任意後見人になることができません。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
  • 破産者
  • 行方の知れない者
  • 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
  • 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

 

任意後見人にしてもらいたいことを決める

1. 代理権の内容

将来判断能力が低下した時に、どのようなことを任意後見人に代わりに行ってもらいたいか、という代理行為を決めておく必要があります。任意後見契約で委任することができる(代理権を与えることができる)内容は、財産管理に関する法律行為と、医療や介護サービス締結といった療養看護に関する事務や法律行為です。例えば、施設入所の手続きや入所後の自宅の売却手続き、介護保険の認定申請等が挙げられます。

任意後見人にどのような事務を依頼するかは、契約当事者同士の自由な契約によります。

また、この任意後見契約に加え、本人の希望を「ライフプラン」という形で残しておくと、将来、任意後見人が手続きを行う際の判断材料とすることができます。例えば、以下の内容が挙げられます。

  • 在宅で介護を受けたいのか、施設に入りたいのか、どのような施設に入りたいのか
  • 自宅の処分はどうしたいのか、入院が必要な場合の病院はどこに入りたくて治療の方法はどのようなものか
  • 他にも死亡時の連絡先や葬儀、納骨、墓地についての希望

これらの内容は確定していなかったり、状況によって希望が変わることが考えられます。そのため、任意後見契約に書いておくのではなく、ライフプランとして作成しておく方がよいでしょう。

2. 任意後見人への報酬

任意後見契約に、将来の任意後見人に対する報酬の有無、報酬の額、支払方法、支払時期などは、本人と任意後見受任者との間で自由に決めることができます。

法律上、特約のない限り任意後見人は無報酬です。そのため、報酬を支払うためには、公正証書に報酬規定を盛り込んでおく必要があります。

なお、任意後見事務を行う際に必要となった交通費等の経費や、本人に代わって支払う医療費、介護サービス利用料などは、本人の財産から支払うことができます。

 

任意後見契約は「公正証書」で締結する

任意後見受任者、任意後見契約の内容が決まったら、本人と任意後見受任者の双方が、公証役場に赴き、公正証書を作成します。事情により本人が直接公証役場に出向けないときは、公証人に出張してもらうことも可能です。

公正証書とは、公証役場の公証人が作成する証書のことで、公正証書によらない任意後見契約は無効となりますので注意しましょう。

 

判例紹介

マラソン大会の参加者募集後に、中止の可能性が生じた場合において、その告知せず募集を続けた主催者の損害賠償責任

東京地方裁判所 令和3年2月17日判決

事案の概要

Y(マラソン大会主催者)は、関東地方にある公園(以下、本件公園)を会場とする2020年2月上旬を開催予定日とするマラソン大会(以下、本件大会)を企画し、2019年9月頃、参加者の募集を開始した。ところが、本件公園は、その後の同年10月中旬の台風(以下、本件台風)により、全域が冠水し、園内に土砂が堆積した。そこで、公園が立地する自治体Pは、同年11月頃、本件公園につき、同年11月下旬から翌年2月下旬を本件公園の復旧工事に係る委託期間として設定し、工事業者に対して復旧業務を委託した。本件公園の管理を担うA財団は、2019年10月中旬頃、本件公園全域の閉鎖を決定し、Yを含む本件公園の利用予定者らに対して、本件公園の利用再開日時については未定である旨を連絡した。自治体Pは、2019年11月頃、本件公園の開放時期について、翌年3月上旬の全面開放を目標として公表したが、具体的な開放時期や、復旧業務の業務完了の目途については公表していなかった。A財団は、2019年12月頃、Yを含む本件公園の利用予定者らに対し、復旧業務の進捗等を説明したが、マラソン大会の実施の可否については未定である旨案内した。その最中に、X(消費者)は、2019年12月中旬、本件大会への参加を申し込み、同日、Yに対し、参加費として1万4000円を支払った。本件公園の復旧工事に当たっては、本件大会当日に本件大会のコース予定地に工事車両が往来する予定が組まれたため、Yは、2020年1月上旬に本件大会を中止とする内容の電子メールを、Xを含む参加予定者らに送信した。Yは、本件大会への参加申込者に対し、参加規約(以下、本件規約)への同意を求めており、本件規約第1項(「地震・台風・降雪・事件・疾病等の主催者の責によらない事由で、大会の開催が短縮・縮小・中止となった場合、参加費の返金は一切行いません」)に従い、参加費の返還をしなかった。

Xは、YがA財団から連絡を受けた2019年10月中旬時点で、Yは、本件公園の利用再開の目途が立っておらず、本件大会の開催が困難であることを認識しながら、参加者の募集を継続し、Xから、参加費1万4000円の支払を受けた行為は、Xに対する債務不履行を構成するとして損害賠償請求を行った。

 

裁判所の判断

Yは、Xから本件大会への参加申込みを受けた2019年12月中旬の時点において、復旧業務の進捗によっては本件大会が開催できない可能性があることを容易に認識し得たものというべきである。Yは、本件規約第1項に照らせば、本件台風を原因として本件大会が中止となった場合、参加申込者は、支払済みの参加費の返金を受けられないという不利益を被るおそれがあったといえる。そうだとすれば、Yは本件大会の中止を認識し得た以上、信義則上、本件大会への参加申込者が申込みをするに先立ち、参加申込者に対して、本件マラソン大会の開催は未定であり、本件公園の復旧業務の進捗によっては開催の中止もあり得る旨を告知すべき義務を負っていたと言えるが、Yはそのような告知をしていない。したがって、Yは、前記告知義務の違反について、Xに対する損害賠償責任を負うものと認められる。

 

コメント

本事例のような、ざまざまなイベント等の参加規約において、天災等の主催者の責めによらない事由によって返金されないことはあり得るかと思います。しかし、事前に開催不能が予測される事案については、信義則上告知をする義務があるとし、その告知義務違反として損害賠償を認めたことは妥当と言えます。

マラソン大会のような大人数が集まるイベントでは、規約による画一的な取り扱いがなされることが多いため、参加する側は主催者側の規約や、主催者側が発信する情報などについて、しっかりと確認し、不測の損害を被らないようにしましょう。

 

コラム

~私の今年の目標~

昨年11月の司法書士試験合格発表後、年明けのこれまで、先輩司法書士の方々や合格者同期の方々と会食する機会が続いています。

こちらからお誘いすることもありますし、うれしいことにお誘いを受けることも度々あります。

先輩の方々からは、独立開業時のご苦労や今最も力を入れていることなど貴重なお話が聞けます。

また前職でカレー屋を営んでいた人、亡くなった親の借金返済で若い頃に進学で苦労された方など、みなさんの様々な人生経験が自分の参考になります。

同期の中には今回28回目の受験で合格された方がいらっしゃいました。

みなさんに共通するのは、前向きなこと、なにがしか社会貢献にたずさわっていきたいとの思いがあることです。

ところで、会食にはお酒がつきものですよね。

私自身がお酒好き。

お酒を飲みながらの会話、その場の雰囲気が大好きなのです。

実は、司法書士のみなさんとお会いして思うのは、酒の強い方が多いのです。

年齢、性別問わず。

酒を飲みながら司法書士について熱く語る。

私も調子に乗って飲みすぎた翌日胃薬のお世話になることもありました。

反省要ですね。

私の今年の目標。

引き続きたくさんの司法書士の方々と交流を深めること。

みなさんの知識や経験を参考に勉強すること。

で、もう一つ。お酒はほどほどに。

健軍事務所 野尻 和広

 

お知らせ

寄り添う支援で笑顔ふたたび

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命の絆・大切に、輝く命・永遠に

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