法エールVol.159

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ご挨拶

日に日に暖かくなり、桜の花が少しずつ咲き始めています。2月は梅の花を見に、熊本市西区の百梅園に行きました。色とりどりの梅がとてもきれいでした。数年前から見始めましたが、今では花見をすることが楽しみになってきました。

日本では、花見を楽しむことができますが、世界をみると、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により、たくさんのウクライナの方が犠牲となっています。ウクライナ難民は数百万人におよび、苦しい生活を強いられています。そのような中、日本は、ウクライナの方を避難民として受け入れを開始しました。

ウクライナの首都キエフ(キーウ)にある世界遺産には桜の木が植えてあります。ウクライナの避難民の方が桜を見て、少しでも心の傷が癒えればと思うとともに、故郷であるウクライナで桜の花を見ることができる状況に早くなって欲しいと願うばかりです。

 

それでは、今月の法エールよろしくお願い致します。

(代表社員 井上 勉)

 

~成年年齢の引き下げ等の改正~

これまで、1月及び2月発行の法エールにおいて、2022年4月1日から、これまで民法の規定によって20歳とされてきた成年年齢が18歳に引き下げられることにつき説明いたしました。今回も引き続き、成年年齢関係についての民法の改正につき、Q&A形式で説明いたします。なお、以下のQ1からQ6については、1月及び2月発行の法エールをご参照下さい。

 

Q7 子の養育費はどうなるのですか?

A.子の親が離婚に際し、子の養育費について、「子が成年に達するまで養育費を支払う」との取り決めがなされていることがあります。このような取り決めがなされている場合、成年年齢が引き下げられることにより、子が18歳に達すると養育費はもらえなくなるのでしょうか。

この点につき、法務省の見解によると、取り決めがなされた時点では成年年齢が20歳であったことからすると、成年年齢が引き下げられたとしても、従前どおり20歳まで養育費の支払義務を負うことになると考えられます。

また、養育費は、子が未成熟であって経済的に自立することを期待できない場合に支払われるものなので、子が成年に達したとしても、経済的に未成熟である場合には、養育費の支払い義務を負うことになります。このため、成年年齢が18歳に引き下げられたからといって、養育費の支払義務が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。

例えば、子が大学に進学している場合には、大学を卒業するまで養育費の支払義務を負うとの取り決めをすることも多いと考えられます。このような場合、新たに養育費に関する取り決めをする場合には、「22歳に達した後の3月まで」といった形で、明確に支払期間の終期を定めることが望ましいと考えられます。

Q8 成人式はどうなりますか?

A.成人式の時期や在り方についは、現在、法律による規定はなく、各自治体の判断で実施されることになります。

成年年齢が18歳に引き下げられた場合、そもそも18歳の人を対象とするのか、高校3年生の1月という受験シーズンに実施するのか、といった問題も指摘されています。

各自治体は国による情報発信を踏まえながら、成人式の対応を行っていくことになります。

Q9 成年年齢が引き下げられることにより、18歳、19歳への消費者被害が懸念されていますが、どのような注意喚起が行われているのでしょうか?

A.現行民法では、未成年者が親の同意を得ずに契約した場合には、原則として、契約を取り消すことができるとされています(未成年者取消権)。今回、成年年齢が引き下げられることにより、18歳、19歳の人は未成年者取消権を行使することができなくなるため、悪徳商法などによる消費者被害の拡大が懸念されています。

そこで、政府ではそのような被害が拡大しないよう、様々な広報を行っています。

また、一般社団法人全国銀行協会においても、特設のホームページを開設しています。

これまで、成年年齢関係についての民法の改正につき、Q&A形式で説明いたしました。成年年齢の引き下げに関する運用等について、何かございましたら、当法人までお問い合わせ下さい。

 

判例紹介

未成年者の子がいる者の性別の取り扱いの変更の可否

最高裁判所第三小法廷 令和3年11月30日 決定

事案の概要

申立人Xは、身体は男性として生まれながら、自認する性別は女性であった。

Xは、A女と結婚しB女が生まれたが、B女の親権者をAと定めて離婚し、ホルモン療法に加え、性別適合手術を受けた。A女が未成年であるため、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第3条1項3号(以下、特例法とする。)の要件を満たしておらず、性別変更の申立は却下された。Xは、特例法第3条1項3号の要件が、憲法13条、14条1項に違反すると主張して特別抗告した。

 

裁判所の判断

性同一性障害者につき性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として「現に未成年の子がいないこと」を求める性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項3号の規定は、未成年の子がある者について性別の取扱いの変更を認めた場合、家族秩序を生じさせ、子の福祉の観点からも問題を生じかねない等の配慮に基づくものとして、合理性を欠くものとはいえないから、国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず、憲法13条、14条1項に違反するものとはいえないとして、Xの抗告を棄却した。

(憲法)

第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第14条 1項すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)

第3条 1項家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。

  1. 二十歳以上であること。
  2. 現に婚姻をしていないこと。
  3. 現に未成年の子がいないこと。
  4. 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
  5. その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

 

コメント

特例法第3条1項3号は、平成20年に改正されていますが、改正前は「現に子がいないこと」という文言でした。改正後初の最高裁の判断は、従前の判例を踏襲し憲法に違反しないとしました。

しかし、反対意見を述べる裁判官もおり、SDGsやLGBTなど現代社会の問題・課題に対して、今後、立法府がどのように対応していくのかが注目されます。

 

コラム

~フランダース地方では~

イギリス人作家ウィーダ氏の1872年作品「フランダースの犬」は、日本でアニメ化され、1975年に放送されました。ベルギーのフランダース地方アントワープを舞台にした、少年ネロとパトラッシュという犬の友情などを描いたちょっと切ない物語ですね。

そのネロとパトラッシュが最期に見た絵画が、アントワープ聖母大聖堂にある、ルーベンス(16世紀・ベルギー)作品の「キリスト昇架」と「キリスト降架」です。その大聖堂の中には、この二作の他に、「聖母被昇天」を加えた三つの絵画がルーベンスの作品として実際に展示されています。

日本では有名な「フランダースの犬」ですが、もともとイギリス人が作った物語ということもあり、一昔前まで、その作品の舞台となったフランダース地方では、「フランダースの犬」という作品があることや、日本でアニメ化されたことなど、あまり知られていなかったそうです。したがって、多くの日本人観光客がアニメに描かれている絵画を観るために大聖堂を目指す、いわゆる「聖地巡礼」に来ることが不思議だったようです。

今では、街の皆さんにも「フランダースの犬」は浸透しており、観光に一役買っているようです。

私も、いつか聖地巡礼してみたいものです。

龍田事務所 伊藤 峰治

 

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