法エールVol.154

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ご挨拶

衆議院選挙が、10月19日公示、同月31日に投開票されます。今回の選挙は、コロナ禍で落ち込んだ経済、国民の生活をどうするのかということがひとつの争点となっています。さまざまな対策があると思いますが、その中で「国民一人あたり、いくら給付します。」、「消費税を引き下げます。」という政策を掲げている政党が多くあります。

これは、単純にみると、お金がもらえてうれしいと思うのですが、財務省の事務次官は、新型コロナウイルスの経済対策にまつわる政策論争をバラマキ合戦と批判して、このままでは国家財政が破綻する可能性があると述べています。

現在、国の借金は、1200兆円ほどあるそうです。毎年の国の予算を見ると、歳入の3分の1は国債で賄っており、借金で現在の生活が成り立っているという状況が続いています。日本は、行政サービスが充実しており、大変便利ではありますが、それを支えているのは借金だということで見ると、借金してまでここまでのサービスをする必要があるのかと単純に思ってしまいます。

個人で見るとこれだけ借金して返済のめどが立たないのであれば破産するしかないようにも思いますが、日本は日本円を発行することができるので、破綻することはないと日本政府は述べているとのことです。私は、この理論がよくわからないのですが、破綻しないまでも、何らかの負担がそのうち国民にもくるのではないかと思います。最後に責任を負うのは当たり前ですが、その責任を負うのは国民一人一人だという認識をもつことが大切ではないかと思います。

今回当選される政治家の方には、将来の日本のビジョンを国民に示したうえで、現金給付をするのか等々議論していただきたいと思います。

 

それでは、今月の法エールよろしくお願い致します。

(代表社員 井上 勉)

 

相隣関係について

令和3年4月21日に「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、同月28日に公布されました。今回の民法等改正は、所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しの一環として位置づけられていますが、その中身は、所有者不明土地問題にとどまらず、我々にとって身近な問題の法改正も含まれています。

そこで今回から3回にわけて、相隣関係(隣地使用権、ライフラインの設備の設置・使用権、越境した竹木の枝の切取り)について説明いたします。

 

第1回(隣地使用権)

現行民法209条第1項本文では、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するために必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。」となっています。

この規定では、「隣地の使用を請求することができる」の具体的意味が判然とせず、隣地所有者が所在不明である場合等で使用を請求することが困難であり、また、障壁・建物の築造・修繕以外の目的で隣地を使用することができるかどうかが不明確という問題があります。

そこで、改正民法209条第1項本文で「土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。」に改正され、土地所有者は、以下に挙げる目的のために必要な範囲内で、隣地を使用する権利を有する旨を明確化しました(改正民法209条1項1号~3号)。

  1. 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
  2. 境界標の調査又は境界に関する測量
  3. 越境した枝の切取り

さらに、隣地使用に際して、隣地所有者及び隣地を現に使用している者(隣地使用者)に対する通知制度を設けました(改正民法209条第3項)。通知制度の概要は次のとおりです。

 

【原則】
隣地使用に際しては、あらかじめ(※)、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。

※隣地使用の目的・日時・場所・方法に鑑み、通知の相手方が準備をするに足りる合理的な期間を置く必要があります(事案によって異なりますが、緊急性がない場合には、通常2週間程度)。

 

【例外】
あらかじめ通知をすることが困難なとき(※)は、隣地の使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。

※・急迫の事情がある場合(建物の外壁が剥落する危険があるときなど)
・隣地所有者が不特定又は所在不明である場合(現地や不動産登記簿・住民票等の公的記録を調査しても所在が判明しないときなど)

 

なお、隣地を使用することができる権利があっても、住家については、その居住者の承諾がなければ立ち入ることはできませんし、隣地の使用を拒まれた場合には、私的に実力を行使して妨害を排除することは認められませんので、その場合には、妨害行為の差止めの判決を得て権利を実現することになります。

 

次回は、ライフラインの設備の設置・使用権についてご説明致します。

 

判例紹介

名誉棄損による損害

最高裁判所 平成09年05月27日 小法廷判決

事案の概要

Xの名誉を棄損する記事(以下「本件記事」といいいます)が、Yの発行するスポーツ新聞の紙面に掲載された。本件記事は,「『X氏に保険金殺人の計画を持ち込まれた』あるサラリーマン、ショッキングな証言」等の見出しを付した記事である。

その概略は、「社会的地位のある人」(大手の会社に所属するサラリーマンAさん)が、「確か4年ぐらい前」にXから保険金がらみの交換殺人の計画を持ち込まれたと「証言」しているというものであった。

Xは、本件記事が掲載された後、自分の妻を第三者に依頼して殺害しようとしたとして2つの事件で起訴され、(1)殺人未遂被告事件につき、第1審で有罪判決、控訴審で控訴棄却の判決を受け、上告中であり、(2)殺人被告事件につき、第1審で有罪判決を受け、控訴中であった。

Xは本件記事により名誉を棄損されたとして、Yに対し、損害賠償請求訴訟を提起した。

第1審は慰謝料20万円を認容。Yが控訴した控訴審(原審)は、Xの社会的評価は有罪判決自体によって低下しており、過去の本件記事が影響することはほとんどなく、また、本件記事によってXが精神的苦痛を被ったとしても、そのような記事が過去にあったという不快感程度であり、精神的損害はない等として、請求を棄却した。そこで、Xが上告。

裁判所の判断

原決定破棄、差戻し。

(判旨要旨)
判示した事項は次の3点です。

  1. 新聞記事による名誉棄損によって損害の発生する時期はいつか
    新聞記事による名誉棄損にあっては、これを掲載した新聞が発行され、読者がこれを閲読し得る状態になった時点で、右記事によリ事実を摘示された人が当該記事の掲載を知ったかどうかにかかわらず、損害が発生する。
  2. 名誉棄損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことにより、名誉棄損による損害賠償請求権は消滅するか
    名誉棄損による損害が生じた後に、被害者が自分の妻を第三者に依頼して殺害しようとしたとして有罪判決を受けたことは、これにより損害が消滅したものとして既に生じている名誉棄損による損害賠償講求権を消滅させるものではない。
  3. 名誉棄損による損害について慰謝料の額を算定するに当たリ、損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことを考慮することができるか
    名誉棄損による損害についての慰謝料の額は、損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことを考慮して算定することができる。

    コメント

    名誉棄損の被害者は、加害者に対し、謝罪広告等名誉を回復するのに適当な処分を命ずるよう裁判所に請求することができますが、これに加えて、損害賠償請求をすることもできます(民法第723条)。本件は、被害者が刑事事件で有罪判決を受けた場合であっても、この被害者の名誉棄損による損害賠償請求は消滅せず、一方で、損害賠償の額につき、被害者が有罪判決を受けたことも考慮することが許されるとしています。

    犯罪を犯す人はもちろん許されませんが、SNS上などで、安易にその人の社会的評価を下げるような書き込みや、虚偽の内容を拡散することなどは、名誉棄損と言われかねません。現代は気軽に情報発信ができ、便利な反面、一人一人が情報に対し責任を持って対応していく必要があるようです。

コラム

~亡き父が遺してくれたそら豆の種~

私の実家の周囲には畑があり、生前父が毎年そら豆を栽培していました。このそら豆はスーパーなどで売られているものよりひと回り以上大きく、1つ食べても「そら豆だ」と充実感を味わえる優れものでした。

この味が忘れられず、父他界後は私がそら豆の栽培を引継いでいますが、昨年は新型コロナの影響で栽培するのを見送り、今年再開しました。

なにせ、そら豆の栽培は初めての経験でしたから、いろいろと文献を読んで栽培方法を学びましたが、最初からそれなりに良いものができました。

そら豆の栽培方法を少しだけ説明しますと、1 0月に播種し、年明けの5月に収穫します。その間に、追肥し、害虫のアブラ虫を木酢で除去し、不要な枝を切り、残った主枝も伸びすぎないように摘心します。このような作業を行うことで、一つの袋に2~ 3個の弾けるよう「そら豆君」ができます。また、日光が一杯当たるようにしてあげることもポイントのようです。

そら豆の名の由来は、成長の過程で袋が空に向かうことからとの説もあります。収穫時期の目安は、その袋が下向きになった頃です。

収穫量は多くはありませんが、親戚やご近所さんに少しずつ配り、旬をお届けしています。その際、収穫後24時間以内食べた方が一番おいしいですよと情報提供もしています。

行政書士法人ヒューマン・サポート 行政書士 藤田 賢司
(司法書士法人ヒューマン・サポート法律支援センター連携行政書士)

 

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