法エールVol.135

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ご挨拶

新型コロナウイルスの感染が世界各国で猛威をふるっています。情報が交錯する中、日本中で混乱が生じています。私のところには、経営者の方からの会社整理に関する相談が数件あり、事態の深刻さを感じております。

私は、以前、「感染列島」という映画を見ました。内容は今回のウイルス感染と似たようなものでした。ウイルスが日本中で蔓延し、医療機関は混乱しました。呼吸器等の機材が足りなくなり、医療従事者は体力を奪われ、精神も弱ってきます。国民は混乱の中、どうすることもできません。交通機関が閉鎖され、経済は崩壊します。そんな中、ウイルスを撃退するワクチンができあがり感染は終息します。

映画なので、少し大げさな表現ではありましたが、医療現場の状況等は臨場感があり、ワクチン完成までの流れはなるほどと思えるものでした。

新型コロナウイルスの発生源はわかりませんが、これまでのウイルスはコウモリ等の野生動物から感染しています。人間がなんらかの原因でウイルスをもった動物と接触し感染するパターンが多いようで、ウイルスは身近に存在しているようです。早くワクチンが完成することを願いつつ、ウイルスと共存できる部分は調整しながら、生活できるようになればと思っております。

それでは、今月の法エールよろしくお願いいたします。

(代表社員 井上 勉)

民事執行法改正について

1月より、「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」が成立による主な改正点についてご紹介してきました。

今回は、差押禁止債権をめぐる規律の見直しについて説明します。

 

一つの事例を挙げて説明します。例えば、生活費に困ってお金を借りた人(債務者)がその返済ができなくなったとします。お金を貸した人(債権者)は、その返済を求めて裁判をし、勝訴判決を得て、債務者の給料を差し押さえることを検討しています。

判決等の債務名義を得た債権者は、債務者の財産につき、強制執行(差押え)の手続きを行うことができ、債務者の給与を差し押さえることもできます。しかし、債務者が給与の全額について差し押さえをされてしまっては、債務者がその家族の生活の基盤が失われてします。そのため、法律は、差押えができる範囲につき、次のような制限を設けています。

  • 月の手取り額が33万円を超える場合・・・33万円を控除した残額の全て
  • 月の手取り額が33万円以下の場合・・・手取り額の1/4の金額

例えば、手取り額が25万円の場合、差押ができる金額は1/4の金62,500円となり、残りの187,500円は生活費として保証されることになります。

しかし、そもそも債務者は生活費に困ってお金を借りた人であり、手取りの給与自体が少ないことがほとんどです。そのような債務者が、給与の1/4の差し押さえを受けてしまうと、たちまちにひっ迫した生活状況に陥ってしまうことが予想されます。そこで、このような場合には、「差押え禁止債権の範囲の変更(取消し)の申立て」を行うことができ、申立てを受けた裁判所は債務者の生活状況等を考慮して差押命令の全部又は一部を取消し、差押えの禁止される債権の範囲を拡張することができます。

この差押禁止債権の範囲変更の制度は以前からあるものですが、現状では、債務者がこの制度の存在を十分に認識していなかったり、この制度を利用のためには、債務者の差押命令が送達されてから1週間以内に裁判所に申立てをしなければならないなどの制約がありました。

そこで、今回の改正においては、裁判所が差押命令を債務者に送達する際に、債務者に対して差押禁止債権の範囲の変更の申立てができる旨を教示し、この手続きの申立てができる機会を実質的に保障することになりました。また、給与が差し押さえられた際の、債務者が差押禁止債権の範囲変更の申立ての準備期間を1週間から4週間に伸長し、債務者が手続きを利用しやすいように改正がなされています。差押えの範囲の変更(減縮)が認められるか否かは裁判所の判断になりますが、この改正により、債務者が最低限度の生活を奪われることが回避される機会が事実上保証されることになります。

今回ご紹介した民事執行法の改正は、本年(令和2年)4月1日から施行されます(※)。これまで、民事執行法に関する改正につきご紹介しました。今回の改正に関する手続き等につきましては、お近くの司法書士、弁護士事務所又は当法人までお問い合わせ下さい。

※登記所からの債務者の不動産に関する情報を取得する手続きは、公布の日(令和元年5月17日)から2年を超えない範囲内で政令で定める日から運用されます。

判例紹介

エスカレーター事故と製造物責任

東京高等裁判所 平成26年01月29日判決

事案の概要

Aは、東京都内のビルの2階で営業している日本料理店で、職場の上司、同僚ら十数名と会食をした後、本件飲食店のほぼ正面にあった1階への下りエスカレーターの乗り口付近の広場で午後9時半頃参加者全員の集合写真を撮影した。その後、しばらくAは乗り口付近に立っていたところ、Aの背中が下りエスカレーターの向かって右側の移動手すりの折り返し部分に接触して乗り上げた。体勢を崩したAはエスカレーター外側吹き抜けから1階床に転落し、翌日0時半頃頭蓋内損傷により死亡した。

Aの両親は、本件ビルの共有者で、ビルの全体の管理運営をしているY1に対し、エスカレーターには設置保存での瑕疵(何らかの欠点)があったとして、民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)に基づき、また、エスカレーターを製造したY2に対しては、本件エスカレーターには欠陥があったとして製造物責任法3条に基づき合計9,600万円余りの損害賠償を請求した。これに対しY1は、エスカレーターには設置保存の瑕疵はなく、事故は手すりに後ろ向きに寄り掛かったというAの異常な行動によって発生したなどと争った。Y2もエスカレーターには欠陥は無いなどとして全面的に争った。

第一審判決は、Aは本件エスカレーターの存在を十分認識しながら、自分から移動手すりに接近し、体の背骨に沿った部分を移動手すりの折り返し部分に接着させて後ろ向きに寄りかかり、その結果、本件事故が発生したと判断した。そしてこのような用法は、エスカレーターの本来の用法からはかけ離れた通常予想し得ない異常な行動であり、エスカレーターが通常有すべき安全性を欠いたとは言えないとして、Aの両親の請求を棄却した。両親はこの判断を不服として控訴した。

裁判所の判断

本件エスカレーターは、同機種のものを含め国内だけでも7,000台以上、製造・設置されており、移動手すりに接触し、その摩擦によって乗り上げるという事故は報告されていない。

Aの行動は、エスカレーターの本来の用法とは大きくかけ離れるものであり、Aのような行動をとる者がいることを予見して、本件エスカレーターを設置または保存すべきであったということはできない。Y2の製造物責任に関しても、本件エスカレーターは関係法令等に適合し、広く普及した仕様の一般的なエスカレーターであり、利用者による、本来のエスカレーターの使用形態とは大きくかけ離れた使用によって事故が発生したとしても、通常有すべき安全性を欠くものと言うことはできないと考えられる。

コメント

裁判所は、本件事故は、本来の使用方法ではなく、被害者が手すりに寄りかかるという想定し得ない異常使用によって生じたものであるから、本件エレベーターの設置、保存の瑕疵もなく、製造物責任法2条2項の「欠陥」にも当たらない、としています。

この使用形態には、本来の使用方法のほか予想される誤使用においても安全でなければならないと解釈されています。(例えば、椅子を踏み台として使用することなど。)

今回の事故は、「誤使用」ではなく「異常使用」であるとして、製造物責任を認めていませんが、誤使用と異常使用は明確に分けられるものではなく、酔客も利用することを考えると、安全性についてどのように考えるかは問題になりそうです。

司法書士日記

新型コロナウイルスの影響でマスクが手に入りにくい昨今、知り合いの方から手作りのガーゼのマスクを頂きました。その方はカラフルな模様の生地やアニメのキャラクターがプリントされた生地を使って作成されていました。私のマスクの柄はお任せでお願いしており、到着までちょっと緊張していたのですが、届いたマスクは、なんとピンク! しかもサクラの模様付き! なんて可愛いのだろうと、最近の自粛疲れも忘れ、楽しい気分に。人前で着用するのはちょっと恥ずかしい気もしますが、楽しませてくれる心遣いがとても嬉しく思いました。

このような時こそ、一人一人が楽しみを忘れず、みんなで大変な状況を乗り越えていきたいと願うばかりです。

健軍事務所 司法書士 山﨑 順子

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