法エールVol.134

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ご挨拶

新型コロナウイルスが猛威をふるい、連日のように感染者が増えたというニュースが流れております。新型コロナウイルスは、中国から全世界に広がりました。広まった時期が、ちょうど春節と重なったこともあり、例年中国人はこの時期に、海外旅行や故郷に帰省する方が多いということで、感染が広がるのではないかと心配しましたが、今年は中国の交通機関を使った人が例年より40%少なかったということです。日本への中国人旅行者も減少したということで、京都の観光地の映像がニュースで流れていましたが、普段は海外旅行者で賑わう観光地が閑散としていました。宿泊予約サイトから宿泊状況を見てみましたが、空室が目立ち、3月4月でも充分に予約が取れる状況でした。民間のシンクタンクの発表では、新型コロナウイルスの影響で、国内のGDPがかなり下がるということでした。

年始には考えられなかった状況が起こっています。これからも想像がつかないようなことが起こってくるのではないかと思います。しかし、どのような状況になっても対応できるような組織にしなければなりません。そのためには、役員や社員達の人間力やスキルを上げて、どのような状況にも対応できる人材になる必要があります。弊法人では、資格者だけでなく社員も含めた実務研修や、社員を中心とした資格試験への取り組みを行い、司法書士試験合格に向け勉強を頑張っています。その中で、今年は、社員の一人が行政書士試験に合格しました。この社員は、司法書士試験を目指して頑張っていますが、合格に向けいい弾みになったのではないかと思います。このように、各自がスキルを磨き、その中で、仕事観・人生観をより深めていけたら、きっと社会に有益な法人となることができるのではないかと思います。

それでは、今月の法エールよろしくお願いいたします。

(代表社員 井上 勉)

民事執行法改正について

前回より、「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面医関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」が成立したことによる主な改正点についてご紹介しています。

前回は、「債務者財産の開示制度の実効性の向上」として、1.債務者の財産開示手続きの見直しについて説明しました。

今回は、2.第三者からの情報取得手続きの創設について説明します。

 

前回のおさらいですが、例えば、誰か(債務者)に貸していたお金が約束の期日までに返してもらえず、裁判所での裁判手続きをとおして、勝訴判決を得ることができたとします。判決を得た債権者は、相手が任意に支払わない場合には相手の財産から貸したお金の回収をするために、強制執行(差押え)をすることができますが、これまでは債務者の財産(不動産や預貯金など)の有無、所在等は、債権者が探し出す必要があり、せっかく判決を得たとしても、差し押さえる対象が判明せず、泣き寝入りとなってしまうことが多くありました。

そこで、債務者の財産の情報を債権者が取得することで、強制執行をより実効性のあるものとするため、1.債務者の財産開示手続の見直し、2.第三者からの情報取得手続きの創設がなされました。

2.第三者からの情報取得手続きの創設

債務者の財産に対して強制執行をするためには、裁判所に強制執行の申立てをする必要があり、債務者のどの財産を対象とするかを特定する必要があります。例えば、預貯金であれば、金融機関名や支店等、給与を差し押さえるには、債務者の勤務先の名称・所在地等、不動産であれば、その所在・地番等などです。これまで、これらの情報については債務者以外の者から情報を開示してもらう手続きはなく、せっかく裁判で勝訴したとしても、差押えができない(財産の有無、所在等がわからない)という状況に陥っているケースが多くありました。

今回の改正では、裁判所に申立てをすることによって、債務者に関する情報を預貯金であれば銀行等の金融機関から、不動産であれば登記所から、勤務先であれば市町村や年金事務所等から開示してもらう手続きが新設されました。この制度によって、債権者はどの財産を差押えるのかを特定でき、債権の回収に役立つことができます。

なお、不動産やと勤務先については、この制度の利用に先立って、前回説明した債務者からの財産開示の手続きを行うことが必要となります。また、勤務先に関する情報取得については、「養育費等の支払い」や「生命又は身体の侵害による損害賠償金の支払い」に限られます。

判例紹介

外壁塗装工事と化学物質過敏症

大阪地方裁判所 平成26年10月6日判決(控訴審において和解)

事案の概要

Yは外装塗装工事会社であるが、ビルの塗装工事を行っていたところ、本件ビルの1室の借主であるXが体調不良となったため病院を受診し、外壁のペンキにより頭痛がする旨訴えた。

Xはその後も、本件ビルの外壁工事に伴い頭痛、激しいしびれ等が出ていることを訴え、神経節ブロック(麻酔注射)等の治療を受けた。Yは、各所の塗装や手直し塗装を行って本件工事は終了した。

Xは医師から、微量な化学物質で容易に交感神経緊張を来すため血圧、体温等が上昇しやすい状態にあるなどとして、シックハウス症候群に罹患しており、空気汚染物質により現在は化学物質過敏症となってきているとの診断がなされた。

Xは、本件工事により化学物質過敏症になったとしてYに対し、不法行為に基づき、約3,300万円等の損害賠償の訴えを提起した。

裁判所の判断

Yは、化学物質過敏症は医学的に確定した疾患とは認められないと主張する。しかし、2004年に厚生労働省の研究会が公表した報告書では、近年、微量化学物質暴露により、従来の毒性概念では説明不可能な機序によって生ずる健康被害の病態が存在する可能性が指摘されてきており、これが国際的には「MCS(Multiple Chemical Sensitivity):多種化学物質過敏症」という概念で把握され、環境中の数々の低濃度化学物質に反応し、非アレルギー性の過敏状態の発現により、精神・身体症状を示す患者が存在する可能性は否定できないとも報告している。

本件工事では、塗料が大量に使用され、その塗料中に有害な揮発性化学物質が多量に含まれていたこと、本件店舗は空気が滞留しやすい構造であったこと、本件工事による揮発性化学物質は、シックハウス症候群になり得る量であったとしていることなどからすると、Xは本件工事の塗料に含まれる化学物質に暴露し、化学物質過敏症が発現・悪化したものである。

YはXが揮発性塗料に含まれる化学物質に暴露することは予見可能であり、結果回避をすることも可能であったとして、Xの主張を認めた。(但し、Xの後遺障害は、後遺障害等級表14級の「局部に神経障害を残すもの」であり、またXの持病も相まって、30%の減額を行い、総額220万円のみ損害賠償が認められた。)

コメント

化学物質過敏症は医学的には確定された傷病名ではありません。しかし、この症状が重くなると、仕事や家事ができなかったり、学校に行けなくなったりなど、通常の生活さえ営めなくなる、極めて深刻な“環境病”と言われています。化学物質に大量に、繰り返しさらされるなどして発症することがあるようです。

日常生活の中で化学物質に全く触れないということは難しいかもしれません。換気に気をつけたり、普段使用するものの成分に気を配るなど、日ごろの生活の中で気をつけていくことが大切なようです。

コラム

~なくせないもの~

ずっと昔、熊本ではわりあいとよく見かけることができたらしい、名前が「宇樹橘(うじゅきつ) 」という柑橘があります。ご存じでしょうか?

レモンに似た色身で、丸く涙型の外見をぷらりと枝に下げます。

他のどの柑橘とも違う、透き通る香りと甘味が自慢のようです。

巷から姿を消して幾久しいわけですが、私の実家の果樹園の隅っこにこっそり息づいています。

数年前に譲り受けた原木の新芽を接ぎ木したものです。

先日、近所の子供にかじらせたら、初めての味と香りにひどくどぎまぎした顔だったのが愉快でした。

「ママにおしえたい! 」と、その子。

古くていいものを残していける喜びは、新しい喜びの出発になったようです。

健軍事務所 甲斐 省吾

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