法エールVol.133

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ご挨拶

新年明けましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりました。本年もよろしくお願い申し上げます。

さて、弊法人では、毎年、年度方針発表大会というのを行っております。全社員が集まり、今年一年の目標を発表します。弊法人の今年の年度方針は、「一陽来復我が仕事に感謝し全身全霊でやり抜き真の幸福を得る」としました。仕事に焦点を当て、人生の中で仕事をどのように位置づけるか、各社員が考える機会になればと思います。また、社員さんから司法書士試験合格者を輩出できるよう、今年も社内勉強会等で切磋琢磨し、1人でも多くの方に合格をしていただければと思います。

今年は、司法書士の仕事を多くの方に知っていただけるような活動を行おうと考えております。司法書士の仕事は多岐にわたるため、ご相談を受けると、ここまでできるんですか、と驚かれたりすることがあり(逆にこれ以上はできないんですかと言われることもありますが)、あまり司法書士の仕事内容が社会的に認知されていないと感じます。

例えば、相続のご相談で、お亡くなりになった方の通帳等の解約手続き等は、遺産承継業務として司法書士が受任することができるのですが、相続の登記手続きで来られて、ご相談の中で初めてそういう業務があるということを知る方が多くあります。相続に関する銀行等の通帳解約や役所の手続きは煩雑であるので、司法書士でできるのであれば、一緒にお願いしようという方もいらっしゃいます。

相続に関しては、最近、どのように相続するかという相談に加えて、どのようにして遺産を相続しないかという相談もあります。特に不動産のみしか遺産がない場合は、管理の大変な不動産を相続したくないと考えられるようです。以前から問題となっている、日本の所有者不明土地は九州本土くらいあると言われておりまして、相続手続きが正しく行われなかったことで、このような結果を招いています。所有者不明土地に関しましては、相続法を含めて様々な法律が成立・改正されることで、少しずつ改善していくものと思いますが、相続手続きがあまり負担にならないように、弊法人でも積極的にお手伝いできればと考えております。

最後になりましたが、毎回、法エールをお読みいただきましてありがとうございます。本年も、皆様に少しでも法律の情報をご提供させていただき、お役に立つことができれば、これ以上の喜びはございません。何卒、よろしくお願い致します。

(代表社員 井上 勉)

民事執行法改正について

令和元年5月10日に「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、同年5月17日に公布されています。

主な改正点は、次のとおりです。

  1. 債務者財産の開示制度の実効性の向上
  2. 不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策
  3. 国内の子の引渡しの強制執行に関する規定の整備
  4. 差押禁止債権の規定、債権執行事件の終了の規定の見直し

このうち、今回は「債務者財産の開示制度の実効性の向上」について説明します。

 

例えば、誰か(債務者)に貸していたお金が約束の期日までに返してもらえず、裁判所での裁判手続きをとおして、勝訴判決を得ることができたとします。判決を得た債権者は、相手の財産から貸したお金の回収をするために、強制執行(差押え)をすることができますが、これまでは債務者の財産(不動産や預貯金など)の在りかは、債権者が探し出す必要があり、せっかく判決を得たとしても、財産の在りかが分からず、泣き寝入りとなってしまうことが多くありました。

そこで、債務者の財産の情報を債権者が取得しやすくすることで、強制執行をより実効性のあるものとするため、1.債務者の財産開示手続の見直し、2.第三者からの情報取得手続きの創設がなされました。

1.債務者の財産開示手続の見直し

債務者の財産に対して強制執行をするためには、裁判所に強制執行の申立てをする必要があり、その後、差押え、換価、配当という手続きの流れになります。この差押えをするためには、債務者のどの財産を対象とするかを特定する必要があります。例えば、預貯金であれば、金融機関名や支店等、給与を差し押さえるには、債務者の勤務先の名称・所在地等、不動産であれば、その所在・地番等などです。

債権者は債務者の財産の内容について分からないことも多いことから、平成15年に、債務者の財産に関する情報を債務者自身の陳述により取得する手続きとして、「財産開示手続」が創設されていました。しかし、この手続きは、債務者が裁判所から呼び出しを受けたにもかかわらず正当な理由なく出頭しなかったり、出頭しても宣誓を拒否したり、虚偽の陳述をするなどした場合であっても、30万円以下の過料というペナルティしかなく、強制力として弱く、利用実績も年間1,000件前後しかありませんでした。

そこで、今回の改正では、債務者の不出頭や、虚偽の陳述など場合の制裁として、「6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金」とする刑事罰を科すことにより、財産の開示手続きを実効的なものにしました。また、これまで財産開示の手続きができる者は確定判決等を有する債権者しか申立てができませんでしたが、これに加え、仮執行宣言付判決や、執行証書(公正証書で金銭の支払いにつき、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述があるもの)を有する債権者も財産開示手続きの申立てができるようになりました。

(※この改正は、本年(令和2年)4月1日より施行されます。)

次回は、2.第三者からの情報取得手続きの創設について説明します。

判例紹介

マンションの前所有者が滞納した管理費等の負担

大阪地方裁判所 平成21年7月24日判決

事案の概要

本件は、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」)3条に基づくマンションの管理組合が、分譲マンションの1室について、管理費等を延滞していたかつての所有者より担保不動産競売により取得した中間取得者、及びそこからさらに買い受けた者に対し、同法8条により、マンションの区分所有者全員のために滞納していた管理費、水道料金等の支払いを求めた事案である。

裁判所の判断

裁判所は、当該居室の購入者(特定承継人)も、前所有者(以下「前主」)の延滞分の支払義務を負うとしたうえで、(1)管理規約に定められた個人の上下水道料金等を前主が延滞していた場合、その義務も購入者らに及び、(2)前主からマンション購入後転売した中間取得者も前主の延滞分支払義務を免れることはなく、(3)(本事例では前主に対して支払いに関する確定判決がなされていたことから、)これらの購入者は民法148条にいう時効中断の効力が及ぶ承継人に当たり、かつ民事訴訟法115条1項3号により確定判決の効力が及ぶ口頭弁論終結後の承継人に当たるとして、管理組合の請求を全部認容した。

コメント

滞納金支払義務は、前主にとっては管理規約等によって発生する債務であり、新所有者にとっては区分所有法8条によって生じる義務であることから、回避することはできません。

購入前であれば、滞納金の有無を確認し、価格に反映させるなど対応を取ることもできますが、購入後に発覚した場合には問題となります。

中間取得者について本判決は、同法8条の立法趣旨が、特定承継人に特に債務の履行責任を負わせることにより債務履行の確実性を担保することにあると考えているため、一度義務を負った以上は区分所有権を失っても義務を免れないとしています。

この判断は、管理組合の維持・存続の観点からは重要であり、支払いの義務を免れるために事情を知らない者に転売する逸脱行為の防止のためには有効ですが、滞納の事情を知らずに購入した人にとっては思わぬ負担を強いられることになり、厳しいと言わざるを得ません。また、前主における時効中断等の効果が新所有者に及ぶとの判断についても、中断事由の有無等は新所有者に分かる可能性は低く、単純に時効期間の経過のみで判断できない点に注意しなければならないでしょう。

 

建物の区分所有に関する法律
第7条第1項: 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
第8条: 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができ

(参考 判例タイムズ 1328号120頁)

司法書士日記

昨今、多くの自治体や企業、団体がSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みとして様々な活動を行っています。

先日、環境問題に関する講演会に参加する機会がありました。近年、国際的には「気候非常事態宣言」を行う自治体や大学が増えてきています。この気候非常事態宣言とは、気候変動が異常な状態であることを宣言し、気候変動を緩和するための積極的な政策を打ち出すことによって、市民や事業者などの関心を高め、気候変動への行動を加速させるものです。日本では、長崎県壱岐市が2019年9月に宣言し、鎌倉市や長野県の白馬村も行っています。また、東京都は「気候危機行動宣言」を行っています。

環境問題については、私たち一人一人の意識も大切ですが、将来の子どもたちのため、その意識をさらに高め、自治体や企業、各団体が環境問題に対しどのように取り組んでいるかを注視し、選択していくことも大切な視点であることを学びました。

健軍事務所 司法書士 山﨑 順子

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