法エールVol.129

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ご挨拶

日本には、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地(所有者不明土地)が、約410万ヘクタールあるといわれており、これは九州本土の367.5万ヘクタールを上回っています。この原因として、人口減少・高齢化の進展に伴う土地利用ニーズの低下や地方から都市等への人口移動を背景とした土地の所有意識の希薄化等があげられます。

そのような中、昨年11月に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が施行されました。これは、長期間相続登記が未了の土地について、登記官が相続人を探索した上で長期相続登記等未了土地である旨を登記簿に職権で記録し、相続人に対して相続登記を促すというものです。相続人探索に関しては、熊本県公共嘱託登記司法書士協会が熊本法務局から嘱託を受け、現在調査をしておりますが、その数は膨大です。

また、本年5月に「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」が成立しました。これは、登記簿の表題部に所有者の氏名又は名称及び住所の全部又は一部が正常に登記されていない土地について、登記官に所有者の探索のために必要となる調査権限を付与するとともに、所有者等探索委員制度を設け、所有者の探索の結果を登記に記録するというものです。

所有者不明土地や表題部所有者不明土地に関しては、幣法人でもご相談を受けることがありますが、所有者が見つからない、又は連絡がとれないため、最終的に訴訟を提起し、手続きに長期間を要するものもあります。そもそも、国土の20%以上の土地が管理されていない状況は、災害等何かあった際に大変危険であり、土地の流通の上でも社会的損失が大きいものです。今回の法整備により、少しでも状況が改善することを願うとともに、弊法人でも微力ながらお手伝いできればと思います。

それでは、今月の法エールもよろしくお願いします。

(代表社員 井上 勉)

遺言Q&A

前回、前々回と、遺言Q&Aと題し、遺言に関する事例をご紹介してきました。3回目となる今回も引き続き、遺言に関するいくつかの事例をご紹介したいと思います。

Q5 父が死亡し、遺言書(手書きのもの)が見つかりました。しかし、この遺言書には押印がありませんので、遺言は無効との扱いですが、この無効な遺言には何の効力もないのでしょうか。
A 遺言はその要式が法律で定められており、この要式を欠く遺言は無効となります(民法960条、968条1項)。したがって、今回の場合、押印のない遺言書であるため、遺言としては無効という扱いになります。しかし、内容次第では、死因贈与契約(贈与者(被相続人)の死亡を条件として、その時に贈与の効力が生じる契約)として認められる場合もあります。あくまでも「契約」ですので、受贈者(もらう側)の承諾があったと認められる必要があり、少なくとも被相続人の生前のうちに遺言の内容を認識している必要があります。無効な遺言による死因贈与契約が認められるかどうかは、相続人に大きな影響を及ぼすこともあり、裁判にまで発展することもありますので、遺言の作成する際は、その要式にも十分注意して行う必要があります。
Q6 被相続人Aの唯一の相続人であるBは、相続放棄をする予定ですが、Aの葬儀費用をAが残した預金から支出したいと考えています。この場合、相続財産の処分として、相続を承認(法定単純承認)することになるのでしょうか。
A 民法921条では、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときには、相続を承認したものとみなされます。これを法定単純承認といいます。被相続人名義の預金を解約し、費消する行為は、この法定単純承認に該当し、相続人は相続を承認したとみなされることから、相続放棄をすることは認められないことになります。しかし、被相続人の葬儀費用に充てることが遺族(相続人)の置かれた状況からやむを得ないこともあり、葬儀費用に支払ったとしても、相続放棄が認められた裁判例もあります。ただし、認められた裁判例も、費消した相続財産が僅かだったり、相続債務があることを知らずに相続財産を費消したりなど、個別の事情が考慮された判断であることから、相続放棄を予定している場合に、被相続人の財産から葬儀費用を支払うことは、避けた方がいいと言えるでしょう。

これまで、遺言に関する事例をご紹介いたしました。今年から来年にかけて、遺言に関する法律の改正が続きます。(自筆証書遺言の財産目録に関して手書きの要件緩和や、自筆証書遺言の法務局での保管制度など)

詳しい改正の内容については、お近くの司法書士、弁護士事務所、または当法人にお問い合わせください。

(参考『実務家が陥りやすい相続・遺言の落とし穴』(新日本法規平成30年)

判例紹介

行為者の性的意図と強制わいせつ罪の成立要件

最高裁判所大法廷 平成29年11月29日判決

事案の概要

被告人が、児童ポルノを製造、送信する対価として融資を得る目的で、当時7歳の被害女子に対し、口腔性交(こうくうせいこう)をさせるなどのわいせつな行為をし、その様子を撮影するなどして児童ポルノを製造し、それらを提供したとして強制わいせつ、児童ポルノ製造、児童ポルノ提供等により起訴された事案である。

第1審判決は、被告人に自己の性欲を満たす性的意図があったとは認定できないとした上で、強制わいせつ罪の成立には「その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させ又は満足させる性的意図」を要するとした最高裁判例(以下「昭和45年判例」という。)は相当でないとの判断を明示して強制わいせつ罪の成立を認めた。被告人が控訴したものの、原判決も、被告人に性的意図がないとした第1審判決の事実認定を是認し、行為者の性的意図の有無は同罪の成立に影響を及ぼすものではないとして、昭和45年判例の判断基準を現時点において維持するのは相当でないと判示するなどして控訴を棄却し、被告人が上告した。

裁判所の判断

刑法176条にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はあり得るが、行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではない。被告人の行為そのものが持っている性的性質が明確な行為であるから、その他の事情を考慮するまでもなく、性的な意味の強い行為であり、客観的にわいせつな行為であることが明らかであるとして、強制わいせつ罪の成立を認めた。

コメント

本判決においては、昭和45年判例の結論は維持できないとして、判例変更を行ったものです。判例変更された昭和45年判例は、被告人(男性)が、被害女性(23歳)を自室に呼び出し、仕返しの目的で約2時間にわたり脅迫し、畏怖した被害女性を裸にさせ写真をとった事案について、裁判所は、「強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図」が必要であるとし、報復、侮辱、虐待目的の場合には、強制わいせつ罪は成立しないとしたものです。本判決は、「今日では、強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては、被害者の受けた性的な被害の有無やその内容、程度にこそ目を向けるべき」であるとの解釈指針を示し、昭和45年判例を約半世紀ぶりに変更し、強制わいせつ罪の解釈を明確化したものとして、重要な意義を有するといえます。

(判例タイムズ参照)

司法書士日記

もともと映画を映画館で観ることはほとんどなかったのですが、たまには気分転換にと、久しぶりに映画館で鑑賞したのをきっかけに、最近、少し映画を鑑賞する機会が増えました。私が選ぶ映画は、どちらかというと人気映画ランキングに入るような派手なものではなく、社会問題を提起していたり、上映後に、「あれはどういう意味だったんだろう」と考えたりする作品が多いようです。

最近は、週末の仕事に区切りがついたときに、レイトショーでお得に鑑賞することもあります。思い付きで行くので、いい作品の時もあれば、ちょっとしっくりこないこともあったり。そういう楽しみも含めて、芸術の秋を堪能したいと思います。

健軍事務所 司法書士 山﨑 順子

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