法エールVol.123

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ご挨拶

3月となり、暖かさを感じる季節となりました。

袴を着た学生が卒業式に向かう姿を見る機会があったのですが、その姿は未来への希望を感じるものでした。

さて、成年後見制度(後見・保佐・補助)は、判断能力の不十分な方の法律面や生活面での支援を行うため、成年後見人を選任するというものですが、2000年に開始されてから、これまで20万人以上の方々に利用されてきました。

しかし、認知症予備軍が400万人以上いるといわれている中で、この数字は決して多いとは言えません。

成年後見人は、家庭裁判所にて選任することになっているのですが、開始当初は、親族の中で後見人になる人を決めて、その方を後見人候補者として推薦し、家裁の審査を経て、親族の方がそのまま後見人となるというパターンが多く、後見人になる人が見つからないとか、財産関係等で紛争性がある場合に、第三者後見人として弁護士、司法書士等の専門職がなるというイメージでした。

しかし、親族を後見人にすることで横領等の事件が発生し社会問題となったことで、第三者後見人の選任が増え、現在では親族後見人よりも第三
者後見人が選任される方が多くなってしまいました。

成年後見人の選任申立をしても、運用上、親族が成年後見人に選任されにくい状況の中、ご相談者の中には、成年後見人の申立てを躊躇してしまう方もいらっしゃいます。

今月18日、最高裁判所は、成年後見人には、身近な親族を選任することが望ましいという考え方を示しました。

これは、高齢化社会の中で、成年後見制度を利用しなければならない人が増えてくるのに、成年後見制度が利用しにくい仕組みとなっていてはいけないという考えがあったものと思われます。

最高裁の意見によって、これから少しずつ親族後見人が増えてくるのではないかと思います。

未来に向け、さらに成年後見制度が利用されることを期待し、私たちも利用促進の一助を担えればと思います。

それでは、今月の法エールもよろしくお願いします。

(代表社員 井上 勉)

民事信託について

前回、前々回と、民事信託の活用についてご紹介しております。前回は、2代、3代と受益権が承継していく信託特有の後継ぎ型についてご説明いたしましたが、今回は、会社に関する信託の事例をご説明いたします。

【事例】

Aは、株式会社甲の創業者であり代表取締役です。株式は100%保有しています。

Aの長男Bは、株式会社甲の専務であり、Aは、株式会社甲をBに承継して欲しいと考えています。

Aは、60歳でまだ働けるのですが、Bには早く代表取締役になってもらい、若いうちから代表者としての経験を積ませたいと考えています。

しかし、株式を早々にBに渡してしまうことへの不安もあります。

【解決策】

AからBへ株式を譲渡します。その際に条件として、AとBとの信託契約を締結し、その株式を信託することにします。委託者をB、受託者をA、受益者をBとします。受託者をAとすることで、Aは、株式の議決権を行使することができますので、Bに何かあったときに、速やかに対応することができます。

そして、Aが株式会社甲の管理や事業執行を含め、Bにすべて任せると決めた際に、信託を終了させます。

事業承継は、タイミングが難しく、早く子供に任せたいけど不安だという声を聞くことがあります。信託を活用することで、これまでにない解決策がうまれます。今回の事例以外にも事業承継で信託を活用できることがありますので、お気軽にご相談ください。

判例紹介

遺産分割協議と詐害行為取消権

最高裁判所 平成11年6月11日

事案の概要

  1. X(被上告人)は、平成5年10月29日にB及びCを連帯債務者、Yを連帯保証人として、BとCに金銭を貸し付けた。
  2. Yの夫であるAは昭和54年2月24日に死亡し、相続人はYと子供2人(上告人A1と上告人A2)で、亡Aの相続財産は借地権を有する土地と、その土地上にある建物(以下、「本件建物」という。)である。
  3. BとCがXに対しての支払が滞り、XはYに対し、平成7年10月11日に連帯保証債務の履行と本件建物について相続を原因として所有権移転登記するよう求めた。
  4. しかし、Y及び上告人ら(A1及びA2)は、平成8年1月5日頃、Yは法定相続分も取得せず、上告人らが本件建物を取得する旨の遺産分割協議を成立させ、同日所有権移転登記も行った。また、YはXの従業員に対して長期分割で連帯保証債務を履行すると述べていたにもかかわらず、同年3月21日に自己破産の申立てをした。
  5. Xが上告人に対し、この遺産分割協議は債権者であるXを害するとして、詐害行為取消権行使の対象とし取消を求めた。

裁判所の判断

上告棄却

共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。ただし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。そうすると、前記の事実関係の下で、被上告人は本件遺産分割協議を詐害行為として取り消すことができるとした原審の判断は、正当として是認することができる。

コメント

裁判所は、本件の遺産分割協議は民法424条1項の「債務者が債権者を害することを知ってした法律行為」に該当すると判断しました。債権者Xとしては、少しでも貸付金を回収したいと思うはずですし、法定相続分だけでも確保したいと思うはずです。しかし、夫の死亡から長期間経過し、ここにきてYは亡Aの相続財産を一切取得しない、しかも「支払う」と口にしていたのに、自己破産の申立を行ったとなると、自己破産申立は詐害行為取消権の要件とならないものの、Xにしてみては黙っていられないですね。

また、同条2項は、「財産権を目的としない法律行為については、適用しない。」とあります。この「財産権を目的としない法律行為」とは身分行為等(婚姻、養子縁組等)をさします。遺産分割協議は身分行為なのではないかと思えますが、これは「財産権を目的とする法律行為」としたのです。そのため遺産分割協議は詐害行為取消の対象になるとの判断です。

身分行為等の1つとして相続放棄(第939条)がありますが、こちらも「財産権を目的とする法律行為」のように思えますが、「相続放棄」は詐害行為取消権の対象にはなりません(相続の放棄は、既得財産の増加を消極的に妨げる行為にすぎず、かつ、このような身分行為については他人の意思による強制を許すべきでない(最判昭和49.9.20))。

民法第424条(詐害行為取消権)
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。

司法書士日記

先日、今年の大河ドラマの主人公でもある金栗四三の生家を訪問しました。

春を迎え、暖かい気候の中、山桜の開花も重なり、のどかな田園風景の中にある立派な家の中を見ることができました。

金栗は幼少期はとてもひ弱だったようですが、小学校までの往復12キロの「かけあし登校」を積み重ねることで、体力をつけることができ、オリンピックの出場に繋がったそうです。

大きな偉業を達成するためには、日々の小さな積み重ねが大事であること、そして、世界中のどこにいても、人間はその人生を輝かせる才能とチャンスを持っていることを改めて教えてもらえた一日でした。

健軍事務所 司法書士 山﨑 順子

コラム

~桜開花~

桜の開花が始まりました。

今年は各地で平年より早く咲く見込みだそうです。

サクラの語源には、「咲く」に複数を表す「ら」が付いたものという説や、春の稲(さ)の神が座る御座(くら)だという説があります。

健軍事務所の近くの自衛隊通りの桜も、白い花が開き始めています。

今年のお花見が待ち遠しいです。

健軍事務所 荒木 知恵

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