法エールVol.111

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ご挨拶

4年に一度の冬の祭典冬季オリンピック競技大会が、韓国ピョンチャンで17日間に渡り開催されました。様々な感動場面がありましたが、怪我を克服しソチ大会に引き続きフィギュアスケート男子シングル競技2連覇を果たした羽生結弦選手の競技は圧巻でした。人が直面する問題・課題・障害は、天がその人に期待をしている証だという意味の言葉がありますが、66年ぶりの金メダル連続獲得はその言葉の象徴であったように思います。同じく連覇が期待された世界選手権は、残念ながら、怪我治療に専念するため欠場するということですが、これは、今回の出場が、万全の状態ではなかったことを物語っています。羽生選手の一日も早い復帰を期待したいと思います。

今回のオリンピックでのメタル獲得数は合計16個で、前回のソチオリンピックの8個を超えただけでなく、過去最高であった長野五輪での10個を上回り過去最高でした。メダルを獲得された選手含め今回のオリンピックに出場された選手の方々にあらためて敬意を表したいと思います。

身近なところでの競技大会に目を移すと、2月18日に熊本城マラソンが開催されました。私たちの法人からは健軍事務所の小山司法書士が参加し、2年連続して無事完走しました。運動不足になりがちな日常の中で、継続して努力をした成果であると思います。こちらの大会へ参加された皆様もお疲れ様でした。私もより良い習慣を継続していきたいと思います。

それでは、今月の法エールもよろしくお願いします。

(代表社員 大島 隆広)

民法(債権関係)改正のポイント

本年1月号より2回にわたり、平成32年に施行される予定の改正民法につき紹介してきました。これまで、1.消滅時効に関する見直し、2.法定利率に関する見直し、3.保証に関する見直し、4.約款(定型約款)に関する規定の新設について解説を行いました。3回目となる今回は、5.意思能力を有しないでした法律行為の無効の明記、6.債権譲渡に関する見直し(将来債権の譲渡)、7.賃貸借における敷金ルールの明文化について解説します。

5. 意思能力を有しないでした法律行為の無効の明記

意思能力とは、自身の行為の結果を判断するに足るだけの精神能力のことをいいます。例えば、土地を購入する契約を締結した場合、当然にその代金を支払う義務が発生することを認識することができるということです。したがって、重度の認知症の場合など、自己の行為の結果を判断することができない人は意思能力を有しないということになります。

これまで、この意思能力がない場合に契約を締結するなどの法律行為を行った場合、その行為は無効と判断されていました。また、意思能力を有しなかった人が行った法律行為(契約)が無効となった場合、その原状回復義務(受け取った商品の返還や代金の返還等)の範囲は、「現に利益を受けている限度(現に残っている利益)」にとどまるとの解釈が判例・学説上も異論なく認められていました。しかし、民法上に明文の規定が無かったことから、今回の改正において法律行為が無効となった場合の原状回復義務の範囲が明記されることになりました。

6. 債権譲渡に関する見直し(将来債権の譲渡)

ア. 譲渡制限特約の見直し

債権譲渡とは、債権者Aの債務者Bに対する債権について、AC間の売買等により、その債権を新たな債権者Cに移転することをいいます。この債権譲渡は弁済期前にその債権を金銭化や、担保の手段として利用されています。この担保の手段としての債権譲渡は「譲渡担保」と呼ばれ、近時、この譲渡担保による資金調達が、中小企業の資金調達手法として活用されることが期待されています。

しかし、現行の民法では、当事者が債権譲渡を禁止する特約(譲渡制限特約)を認めており、この特約に反した譲渡は無効とされています。これは、債務者にとって弁済の相手方を固定させるメリットがあるからです。そうすると、この債権を担保として利用するためには債務者の承諾を得なければならず、また、譲渡が無効になるかもしれないというリスクから、債権の価値が低額化してしまうなどの問題がありました。

そこで、改正民法では、譲渡禁止特約が付されていても、預貯金債権以外の債権譲渡の効力は妨げられないながらも、譲受人が譲渡制限特約があることを知り、または重大な過失により知らなかったときには、債務者は譲渡人(元の債権者)に対する弁済をもって譲受人に対抗することができる、としました。

また、譲渡禁止特約付債権の譲受人の保護として、債務者が譲渡人又は譲受人に当該譲渡を承認したときや、譲受人が譲渡禁止特約があることを知らず、又は知らないことに重大な過失が無いときには、債務者は譲受人にその債務の履行をしなければなりません。また、譲受人が譲渡禁止特約があることを知っており、又は重大な過失により知らなかった場合には債務者は譲渡人(元の債権者)に対し債務を履行することになりますが、債務者がその債務を履行しない場合において、譲受人が債務者に対し、譲渡人へ履行するよう催告し、履行しない場合は、債務者は譲受人に履行をしなければならないことになります。加えて、譲渡人が破産したときは、譲受人は債務者に債権の全額に相当する金銭を供託するように請求することができるとの規定も設けられました。

イ. 将来債権の譲渡

将来発生する債権については、判例ではその譲渡性が認められていたものの、民法においては譲渡できる旨規定がありませんでした。そこで今回の改正において、将来発生する債権についても譲渡できることが明記されました。

7. 賃貸借における敷金ルールの明文化

現在、家や部屋を借りる際に、家賃の滞納や借主の不注意が原因で必要になった修繕費などに当てるために、敷金を賃貸人に預けておくことは一般的に行われています。しかし、現在の民法において敷金に関する規定は無く、多くの判例によって解決が図られてきました。また、賃貸借終了時における原状回復の範囲などについても民法に規定は無く、判例等の積み重ねにより解決のルールが定められてきました。

そこで、今回の改正において、敷金について、名目を問わず、賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭である旨の定義や、敷金の返還時期や返還の範囲について明文化しました。

また、原状回復の範囲については、原則として賃借人は原状回復の義務を負うものの、通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年変化に伴う劣化等ついてはその義務を負わないというルールを明記することになりました。

これまで3回にわたり、民法改正について解説しました。今回の改正は多岐にわたり、他にも多くの改正がなされる予定です。施行は平成32年(2020年)4月1日の予定ですので、施行日が近づきましたら、改めてご案内いたします。

(次号につづく)

判例紹介

遺言の解釈

最高裁判所 平成3年04月19日 判決

事案の概要

訴外A(被相続人乙山ハル)の相続人は夫Y1(乙山太郎)、長女Y2(乙山夏子)、次女X1(甲野秋子)、三女X2(甲川冬子)がおり、X1の夫がX3(甲野一郎)である。

Aは自己所有の土地①~⑧について、次の内容のとおりの4通の自筆証書遺言を作成していた。

  1. 土地1・2は「甲野の相続とする」
  2. 土地3~6は「甲野一家の相続とする」
  3. 土地7は「甲野一郎に譲る」
  4. 土地8のA持分は「甲川に相続させてください」

X1、X2、X3は土地1~8について所有権または共有持分権の確認を求めて本訴を提起していた。

1審は(1)、(2)及び(4)は民法908条に規定する遺産分割方法の指定で(3)はX3への遺贈であるとした。2審は(1)のX1に属する持分及び(2)、(4)は遺産分割方法の指定で(1)のX3持分(2分の1)及び(3)はX3への遺贈であるとした。Y1及びY2はこれを不服として上告した。

判決の要旨

上告棄却。遺言書(1)~(4)の解釈は2審のとおり。

(Aの相続人でないX3に対する「相続とする」「譲る」旨の遺言の趣旨は、遺贈と解すべきであるが、)遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人とともにではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、(本件の)遺言者の意思は、当該遺産を当該相続人をして他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきである。遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り遺贈と解すべきでない。

民法908条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするためである。したがって「相続させる」趣旨の遺言は、まさに同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言である。

遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情がない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。

コメント

遺言書は、一語一句の表現をめぐって、相続人達を争わせてしまう可能性もあるため、作成時には注意が必要です。

また、「相続させる」として指定された推定相続人が、遺言者より先に死亡した場合、その推定相続人の代襲者その他の者が当然には相続できないとする判例(最高裁平成23年2月22日第三小法廷判決)もあります。

コラム

~感動をありがとう~

平昌オリンピック・パラリンピックが閉幕しましたね。

羽生選手の2連覇、高梨選手の悲願のメダル獲得や、スピードスケート女子選手の活躍、左足の怪我を乗り越え金メダルを獲得した成田緑夢選手など。

本当に、感動を頂きました。なかでも、カーリング女子の盛り上がりは一番だったのではないでしょうか。

あの、オリンピックという大舞台の中で、試合中に満面の笑顔でいられるのは、今まで培ってきた「努力」「自信」「信頼関係」があったからだと思います。

スウェーデン戦でのストーン数センチでの勝利。

カーリングの女神が微笑んだのかな? そだね~ 。

(清水事務所 福島 直也)

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