被補助人の意思尊重と周辺関係者との連携

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GUIDE

成年後見人等が本人の意思を尊重して成年後見人等の事務を遂行すべきことは法定されており(民法858条・876条の5第1項・867条の10第1項)、今さら論ずるまでもないが、他方、本人の意思をおき去りにして成年後見人等と関係者の協議で本人に関する決定をしてしまう危険が多いことも実務の現実であろうと思われる。

特に保佐や補助の類型においては、本人の意思が比較的鮮明であるため、その意思(希望や選好といったものを含む)を実現してより本人らしい生活を送れるよう支援をしることにこそ保佐人や補助人の事務の中核があることに留意して事務を遂行する必要がある。

ただし、本人の意思の実現(たとえば、本事例における在宅生活の継続等)は、保佐人・補助人による支援のみで達成できるものは少なく、多くの場合には、本人を取り巻く身近な、そして信頼できる関係者の協力が不可欠となる。本事例は、補助開始審判申立ての段階から本人の意思を尊重しつつ着実に事務を遂行し、関係者との支援のネットワークにより本人の希望に近い形の支援を行った一事例といえ、補助事務の遂行のあり方として参考となるだろう。

なお、本人の意思をおき去りにせず、本人の意思を尊重して成年後見人等の事務を行うという考え方は、障がい者の権利に関する条約12条の理念や障がい者基本法23条に取り込まれている意思決定の支援という考え方と通じており、石渡和美「『意思決定支援』の考え方からみた未来」(本誌50号44頁)などが参考となる。

(司法書士 梅垣 晃一・うめがき こういち)

 

1 本人の情報

本人は、93歳の女性、自宅で一人暮らしをしている。意思疎通は可能であるが、脚力が弱く、自宅では何とか歩行できるものの、週2回のデイサービスの際は車椅子を利用している。

夫は平成4年に他界し、子どもはいない。親族との交流はまったくなく、親族がいるかどうかも不明であった。本人も、「私にはもう誰もいないから」と何度も言っていた。

性格は人の好き嫌いが多いようで、ケアマネージャー(以下、「ケアマネ」という)によると、これまでもケアマネやヘルパーを何度か交代させることがあったという。おしゃべりが好きで、信頼している人には冗談を言ったり、自分自身の過去の話をしたりする。サバサバした性格で、タバコも吸っていた。

自宅は昭和30年代に夫とともに自ら建てたようで(未登記であり、市は夫名義として登録していた。しかし、自宅の評価額は30万円未満として固定資産税の課税もされていなかった)、老朽化が相当進んでおり、板一枚で仕切られていたり、床が今にも抜けそうであったり、台風がきたらおそらくもたないのではないか、という状態であった。

 

2 補助開始審判の申立てから就任まで

(1)申立書作成の依頼

当職が本人にかかわるようになった話のきっかけは、地域包括支援センター(以下、「支援センター」という)より相談があったからであった。相談の内容は、地域に一人暮らしの高齢の女性がいるが、親族とのかかわりもなく、今後の金銭管理や施設入所、病院への入院手続などを不安に思っている。本人は誰かに支援してもらいたいとの意向をもっているようなので、成年後見制度について、その手続等の説明をしてもらいたいとのことであった。

支援センターの職員の話からすると、本人の判断能力はある程度あるとのことだが、これまでも成年後見制度について少し話をしたことはあったものの、今ひとつ理解が難しかったようで、後見等開始審判の申立てまでは進まなかったようである。しかし、本人に利用の必要性を説明し、いよいよ成年後見制度の利用について前向きになったので、当職は、後見等開始審判申立てを進める方向で本人との打合せを行うこととなった。親族とのかかわり合いがないとのことだったので、保佐開始あるいは補助開始の本人申立てを想定して打合せを行うこととした。

自宅は事務所の近くであったことから、本人の自宅にて支援センター職員、ケアマネ、当職と面談を行った。あまりの建物の老朽化に、よくここで生活できているな、と驚いた。本人はデイサービスの日以外はヘルパーとしか話をしないことが多く、われわれが訪問してうれしかったのか、楽しそうにおしゃべりを始めた。そこでも本人はしきりに「私は独り身だから」や、冗談まじりで「(一人では外出することができないため)私はかごの中の鳥なの」などと言っていた。

支援センターの職員より、「○○さん、今、困っていることは何かないですか、ご自身で手続をすることが難しかったりすることなどはないですか」と話を切り出した。すると、本人は、それまでの支援センター職員との信頼関係がある程度構築されていたこともあり、「お願いせんと、私は一人では何もできん。成年後見人とやらの手続をお願いします」との返答を得ることができ、補助開始審判申立ての手続へと舵を切ることになった。

 

(2)同意書・代理権の範囲の設定

申立書を作成するために、当職は何度か本人の自宅を訪問し成年後見制度の話を繰り返しするも、本人は93歳と高齢のためか、なかなか理解が難しく、一つひとつ、ていねいに話を進めていくことに気を付けた。

本人の収入は国民年金のみであった。前年までは、生活保護も受給していたようだが、現在は本人の生活も年金の範囲で何とか賄える状態であり、生活保護費の支給が停止されている状態であった。

補助の代理権を検討するにあたり、本人が一番困っていることを聞いたところ、「私は一人では銀行に行けん。誰かにしてもらわんといかん」との発言があったため、当職が「では、銀行の手続は代わりにしてもらいますか」と言うと、「そうしてください」との返答であったため、預貯金の管理について代理権の範囲とすることにした。同様に、介護や医療についての話題になると、「それもお願いせんといかんね」とのことであったので、介護契約、医療契約等についても、代理権に含めることとした。

生活保護については、現在停止しているものの、今後、生活保護の手続等が発生することが考えられたため、生活保護の申請等が補助の代理行為として認められているのかについて検討することにした。生活保護法には、直接代理申請を禁止する規定はないものの、福祉事務所は本人の申請意思の確認を行うことから、運用上、代理人による申請を認めていない扱いであることがわかった。

また、本人が在宅であることから、当職が日頃の自宅での生活状況の聴取りを行ったところ、知人が訪問した際に招き入れることがあるとのことで、「誰か知らない方が来られることもありますか。知らない方が突然来られたら不安じゃないですか。」と聞くと「そうたい。そんときにもし金んこつば言われてもわからんもんなあ。そんときもその人(補助人)に言えばよかと?そのほうが安心じゃあるたいね」とのことだった。そこで、訪問販売や電話勧誘販売などの一般的に起こりうる契約トラブルの話をしたところ、「その人(補助人)がおってもらったほうがいい」とのことだったので、訪問販売による契約の締結などについても、代理権に含めることにした。ほかにも、本人の自宅に近所の知人が訪問すること、デイサービスにおいて他の利用者とのかかわりもあり、本人の性格上、深く考えることなく誰かに金銭や財産を渡してしまうことも考えられた。したがって、金銭消費貸借契約の締結や贈与などについても、一人で判断せずに、補助人とともに判断する。一人で判断したとしても、後から補助人に相談して、契約を取り消すこともできる旨の説明をしたところ、そのほうが安心とのことで、代理権・同意権に加えることになった。

本人は信頼できる人にはわがままを言って甘えたり、ちょっとしたいたずらをしたりする。当職にも「冷蔵庫から飲み物を取ってきて」と言ったり、スカートを引っ張ったりなどしていたが、本人としては孫のような年齢の人間と話ができてうれしかったのだろう。当職としても、できる限り信頼関係を構築することに努め、家庭裁判所に補助開始審判の申立てを行い、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート熊本支部からの推薦により、当職がそのまま補助人に就任することに至った。

 

3 就任中の活動

(1)本人からの財産の引継ぎと生活費

補助開始審判申立ての際からある程度の信頼関係は築けていたので、補助人に就任してからの財産の引継ぎ(通帳の引渡し)は割とスムーズにいった。引継ぎの際、当職は、これまでどおり年金が入ったときに本人が直接銀行に行って預金を引き出せることもできることを説明したが、脚力も弱くなっており、今後は代わりに銀行に行ってもらいたいとのことだった。したがって、銀行に対し、補助人の届出も行うこととした。

これまでの本人の生活は、年金が支給されるとヘルパーといっしょに銀行に行き、支給された年金のうち、光熱費等の引落し分は預金に入れたままにし、残った分の年金を全額引き出して財布に入れていた(ちなみに、本人は財布をいつも決まった小さめのバッグに入れており、本人はそれを「私の命の次に大事なもの」と言っていた)。

本人は手元に現金があることに安心していたため、当職としては手元にまとまった金額を置いておくことにやや不安があったが、本人のこれまでの慣れもあるので、しばらくはこれまでどおり年金を預金から引き出し、現金を本人に渡すことにした(2ヶ月で約12万円)。

補助人としての対応で困ったことが、現金を本人に渡すと、本人が「あんたにいつも来てもらって悪かけん、これ」といって当職に3,000円ほど小遣いとして渡そうとするのであった。当職は、「いやいや、私はちゃんと裁判所から決めてもらったお金をいただくことになっているので、もらえませんよ」と当然断るも、「そんなことはわかっとる!わかっとるけどあんたにあげたいとたい!」と語気を強めて言われるので、あまり強く断って本人との関係が悪化し、今後の事務に支障が出てきても困ると思い、受け取った「ふり」をして、本人の小口現金として事務所に保管することにした。

 

(2)自宅での生活

本人は前述のとおり、自宅内では何とか歩行することができるも、家事や食事の支度はヘルパーが行っていた。また、一人での外出は不可能であった。自宅は老朽化が激しく、いつ床が抜けてもおかしくない状態だったので、本人に対し施設入所についての意向を確認することもしばしばあった。そのたびに本人は「私はここで死ぬんだから」と言い、施設入所の意向はまったくなかった。しかし、本人は心臓に持病を抱えており、また夏の時期は熱中症一歩手前になるなど、当職が補助人に就任していた約1年半の間に3回、自ら救急車を呼び入院していた。退院した際に、施設の話をしてみるも、やはり自宅での生活がよいとの強い意志であった。とは言うものの、本人は入退院を繰り返し、体力の低下も進み、在宅での生活は身体面からぎりぎりの状態であった。以前より、ケアマネとの協議で、本人が入所できそうな施設の選定を進めており、施設の見学の話も出ていたが、施設見学の前にまた入院し、なかなか施設への入所手続は進まなかった。

本人が自宅にいるときは、当職に対して、心臓の持病の影響か「背中が痛い、すぐ来てほしい」とか、夏の時期には、「暑い、気分が悪い、すぐ来てほしい(熱中症のような症状を訴える)」などの連絡も入るようになり、対応に苦慮していた。その際、心強かったのが、本人の自宅前のマンションに住んでいた民生委員である。この民生委員も本人の生活を心配して毎日のように本人の自宅を訪問していたので、当職とも面識ができ、本人からSOSの連絡がきたときは、その民生委員に連絡し、本人の様子をみてもらったりして、何とか危機的状況は回避することができた。

ほかにも、病院受診時の介護タクシー利用のため、ケアマネとの連携やヘルパーからの情報収集、本人と仲のよい近所の方との面識をもつなど、周囲との連携を図った。本人の身上監護はとうてい成年後見人等一人でできるものではないので、とくに本人が独居の場合には、周囲との連携の必要性と重要性を感じた事案であった。

 

(3)本人が伝えていなかった事実

当職が補助人に就任して約1年後に本人が入院することがあった。その際に、病院の看護師より当職に連絡が入った。「ご本人が多額のお金を持ってこられていて、病院のほうでは預かれないのですが…」とのことだった。本人の通帳の流れからして多額の現金を持っていることがあるのか、と状況がよくわからなかったが、ひとまず本人に会いに病院に向かった。病室での本人の様子は落ち着いていて、会話もできる状態だったので安心していると、病室に看護師が来て、電話で言っていた現金を持っていた。想像していた金額よりも多額で驚き、「○○さん、このお金どうしたんですか」と聞くと、「箪笥に入れとったったい」とのことであった。夫が亡くなってから生活保護を受給していたため、約18年間、少しずつ現金を箪笥預金として貯めていたようだった(補助人としての財産調査が不十分であった点は反省すべきところだが、この箪笥預金があったために生活保護が停止になっていたようであった)。

本人は、当職に対して、現金を持っていることを伝えていなかったものの、入院することから不安で持ち出したようだった。本人としては私が来たことから安心したのか、命の次に大事なバッグを私に預けてくれた。「○○さん、このお金は通帳の中に入れておきますけどいいですか」と聞くと、「あんたに任せる」とのことだったので、預金として管理することにした。

本人としては、悪気は、まったくなく、月に一度から数度程度しか会わない当職に対して、そこまでの話をする必要がないと思っていたのかもしれない。継続的なかかわりの中で、成年後見人等が知らなかった事実が少しずつ現れてくることもあり、成年後見人等としては本人との信頼関係を構築していく中で、そういった事実や感情を少しずつ焦らず開示してもらい、受容していくことが大事なのだと思う。

 

4 本人の死亡

結局、本人はそのまま入院が続き、当職が補助人に就任してから約1年半後に死亡した。入院の際に、病院に対し、本人に身寄りがいないこと、補助人としては治療に関する説明を聞くことはできても、処置に対する同意権限はないことを伝えた。そのため、病院側に対し、今後の治療や万が一の際の対処については、本人に説明し、本人の意思を確認してほしいとも伝えた。医師は、本人が高齢であるため、本人の身体的に過度に負担になるような処置(心臓マッサージなど)は行わないことになるだろうとのことだった。医師からの説明を本人といっしょに聞き、また、本人からも「もう何もせんでよか」と発言があったため、補助人としても「本人のおっしゃっているようにお願いします」との返答しかできなかった。本人の死亡の連絡が入り、やむを得ず当職で葬儀の手配や火葬を行うことになった。本人の遺骨については、自宅近くの寺に夫の納骨堂があり、事情を説明し、夫といっしょに入れてもらうことができた(近所の知人が同じ檀家であったため、寺への事情説明は同行してもらった)。

本人は、親族はいないとしきりに言っていたものの、調査すると一人の甥がいることがわかった。甥は同じ県内に住所があり、甥あてに通知を出したところ、甥から連絡をもらうことができた。甥からは、「本人がいることも、そこに住んでいることも知っていました。ただ、もう40年くらい会っていません。本人がわれわれに会いにこないようにとかかわりを拒否していたので…」との話だった。生前、本人が親族とどのようなかかわりをしていたのかは最後まで本人が話をすることもなかった。結局、相続人はその甥一人であったが、その甥も相続放棄し、相続財産管理人が選任され、相続財産管理人に財産の引継ぎを行った。

 

5 まとめ

今回は本人とある程度意思疎通が図れ、本人の希望や要望など直接聴き取ることができ、補助人の事務の方向性として本人の希望をできる限り反映させることができたのではないかと思う。しかし、直接意思疎通が図れるからこそ、本人の希望と補助人が直接行うことのできない事実行為などが必要な場面に直面したときに、周囲との連携を図ることが重要になってくると実感した。また、本人の希望や要望が本人の能力からみてかなわない場合に、周囲からの本人に関する情報は、本人の利益を客観的に判断するためにも、欠かせないものである。

今回のような補助の場合は、本人だけでなく、本人の周辺の関係者(ケアマネ、ヘルパー、支援センター職員、民生委員、近所の方など)との連携や情報共有がより重要になってくるので、その点についても配慮をしながら補助事務を遂行していくことになるだろう。

 

本稿は、複数の事例を組み合わせるなどして資料としたものであり、実際の事例とは異なります。

実践 成年後見 No.53/2014.11 掲載

【掲載者】 山﨑 順子