震災に関する法律相談Q&A

今回から3回にわたって、震災に関する法律相談をQ&A方式で連載します。ただし、新しい法律が成立したり、取扱上の便宜で法律とは違った結果となる場合がありますので、その点はご了承ください。

 

Q1. 大災害が起きた場合に対処するために制定されている法律には、どのようなものがありますか。

 

  1. 災害救助法、激甚災害法、災害弔慰金の支給等に関する法律、被災者生活再建支援法、権利保全特別措置法、罹災都市法、災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律などがあります。いずれの法律も、発災により当然に法律の適用を受けるわけではなく、政令による災害指定・地域指定を受けることが必要であることに注意してください。

 

詳しい説明は省略しますが、生活費が足りない、建物が損壊した、災害により親族が死亡した、税金が支払えない等、何か困った時には役立つ法律です。専門家にご相談されることをお勧めします。

 

 

 

Q2. 地震・津波により、隣地との境界が不明になってしまいました。境界をはっきりさせるためには、どのような手続がありますか。

 

  1. 現行法上は、行政が何かしてくれるということはありませんので、まずは当事者間の話し合いとなります。それでも解決がつかない場合は、裁判手続をするしかありません。調停や訴訟を提起する必要があります。なお、簡易迅速な手続として、平成17年にできた筆界特定制度があります。ただし、今回の震災では、当事者で判断できないことが多々でてくると思われますので、何らかの指針が監督官庁からでるのではないかと推測されます。

 

 

 

Q3. 地震により、自己所有地内のブロック塀が倒れ、隣家を傷つけてしまいました。隣人に修理費を支払わなければなりませんか。

 

  1. 従来の判例を基に判断すると、一般的に、その地震が震度5以下であれば修理費を支払わなければならず、震度6以上であれば不可抗力によるものとして支払を免れられると考えられます。しかし、震度6以上の地震は増えており、今後の判例の動向が注目されます。

 

この問題について、昭和53年6月に発生した宮城県沖地震に関する判例は、地震によりブロック塀が倒壊して通行人が死亡した事故に関し、「地震そのものの規模に加えて当該建築物の建てられている地盤、地質の状況及び当該建築物の構造、施工方法、管理状況など」を総合し、「本件ブロック塀の安全性を考えるについても、仙台市近郊において過去に発生した地震のうちの最大級のものに耐えられるか否かを基準とすれば足りる」とし、「ブロック塀が、築造された当時、通常発生することが予測可能な震度5の地震動に耐えうる安全性を有していたか」を基準とした上で、「本件では、未だ右瑕疵があったとは認められない」として、ブロック塀の所有者の損害賠償責任を否定しました。

 

現在の目安としては、建築基準法施行令62条の8は、震度5までは壊れないブロック塀の基準を定めていますので、その他の法令などを遵守した工事をしていれば、震度6から7程度の地震により、崩壊・倒壊した場合には、隣家の住人に対する責任は免れると考えられます。

 

 

 

Q4. 事務所の塀を業者に頼んで工事してもらっていましたが、地震により塀の一部が壊れてしまいました。最終的には、業者に全て建て直してもらいましたが、建て直した分の費用も、私が負担しなければならないのでしょうか。地震により、塀が全て倒壊して建直しが不可能となった場合はどうなるのでしょうか。

 

  1. 工事中の塀が地震で倒壊した場合は、業者が負担するのが原則です。地震で塀が倒壊し、建て直し不可能なときは、業者に建て直しを請求できない反面、費用の負担も免れるのが原則です。ただし、いずれの場合も、契約書の規定が優先しますので、契約書を確認することが重要です。

 

 

 

Q5. 地震やそれに伴う火災で借家が滅失した場合、賃貸借契約はどうなりますか。

 

  1. 賃貸借契約は履行不能により終了するのが原則です。しかし、これでは大地震の場合、多数の借家人が一挙に生活の本拠を失うことになってしまいかねないことから、このような事態に対処するため、昭和21年に罹災都市借地借家臨時処理法(以下、「罹災都市法」といいます。)が制定されています。

 

罹災都市法は、大地震などの一般災害が発生した後、政令で指定することによって適用されることになっていますが、この罹災都市法では、

1.土地と建物の所有が同じAさんであった場合など、建物滅失当時に土地を借りて利用できる権利(借地権)が存在しなかった場合、建物の借主であるCさんは、政令施行の日から2年以内にAさんに土地の賃借を申し出ることによって、他の者に優先して、相当な借地条件でその土地を賃借することができる。

2.Aさんの土地をBさんが借りて、Bさん名義の建物を建て、これをCさんに貸していた場合など、AさんとBさんとの間で土地の利用の契約(借地権)があった場合、建物の借主であったCさんは、政令施行の日から2年以内にBさんの借地権を譲り受ける旨をAさんに申し出ることによって、他の者に優先して、Bさんの借地権を譲り受けることができる。震災で建物を失った場合でも、一定の条件を満たせば、土地の賃借権を取得して自身で建物を建てることができることになっています。

また、同法では、それ以外でも、

3.建物の借主のCさんは、地主のAさんや土地を借りていたBさん等が罹災後最初に建てた建物につき、建物完成前に申出をすることにより、他の者に優先して、相当な借家条件で、その建物を賃借することができる。と定められており、罹災前に建物の借主であったCさんは、家主であったBさんが再築した建物につき、優先的に借り受ける権利もあります。

 

被災された方で、法律相談をご希望される方は、司法書士会、弁護士会、お近くの法テラス等にご連絡ください。また、当法人もご相談をお受けしておりますので、お知り合いの方でお困りの方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。

 

[参照]Q&A災害時の法律実務ハンドブック新日本法規出版