共有名義株式の議決権行使に関して

最高裁三小法廷 平成11年12月14日 判決:平成10年(オ)第866号

事案の概要

父Bは長男Xと次男Aを含む7人の子供がおり、父BはY会社を設立していた。BはY会社の発行済株式4万株のうち3万2,000株を所有していた。Bの死亡後、相続人間でBの遺産とY会社の経営をめぐって争いが生じた。

Y会社は、平成8年7月22日に取締役選任の臨時株主総会を開催し、同総会にはBの全相続人と全株主が出席した。議長となったAは、株式については法定相続分に従って各相続人の議決権の行使を認める旨述べたが、Xはこれに反対。Aは採決を行い、Xを除くBの相続人全員が賛成して、Aを代表取締役とする取締役会決議がなされた。

Xは、共同相続人の準共有に属する株式について、「商法203条2項所定の手続がなく議決権の行使を認めたこの決議は違法であり取り消されるべきである。」「取締役会決議は無効である。」と主張した。

これに対してY会社は、商法203条2項は会社の事務処理の便宜を考慮して定められたものであるから、会社側から法定相続分の割合に従った議決権行使を認めることとしても同項の趣旨に反せず、株主総会決議等に違法はないと主張した。

判決

株式を共有する数人の者が株主総会において議決権を行使するについては、商法203条2項の定めるところにより、株式につき「株主ノ権利ヲ行使スベキ者一人」を指定して会社に通知し、この権利行使者において議決権を行使することを要するのであるから、権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠くときには、共有者全員が議決権を共同して行使する場合を除き、会社側から議決権の行使を認めることは許されないと解するのが相当である。

これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、

  1. Bの有していた本件株式は、Xを含むBの共同相続人が相続により準共有するに至ったが、本件株主総会に先立ち、権利行使者の指定及びY会社に対する通知はされていない。
  2. 本件株主総会には、共同相続人全員が出席したが、Xが本件株式につき議決権の行使に反対しており、議決権の行使について共同相続人間で意思の一致がなかった・・。

そうすると、本件株式については、権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠くものであるから、共同相続人全員が共同して議決権を行使したものとはいえない以上、たとえY会社が本件株式につき議決権の行使を認める意向を示していたとしても、本件株式については適法な議決権の行使がなかったものと解すべきである。したがって、本件株式について適法な議決権の行使がなく、本件株主総絵決議は取り消されるべきであるとした原審の判断は、その結論において是認することができる。

解説

株式が共有名義であった場合の議決権の行使方法は、共有者のうちの一人を権利行使者として指定するか全員が合意してすることになります。例えば、法定相続の場合、株式が共有となりますので、相続人で誰を権利行使者にするか、または全員で行使しなければなりません。

本判決では、会社が相続人の一部からの権利行使を認めることはできない。つまり、相続人全員が納得する形でなければならないと述べています。

しかし、本判決後に会社法が施行され、第106条但書に「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」と規定されましたので、現在では、会社側から共有者の一部を権利行使者として認めることは可能になっています。

商法

第203条共同シテ株式ヲ引受ケタル者ハ連帯シテ払込ヲ為ス義務ヲ負フ
2. 株式ガ数人ノ共有ニ属スルトキハ共有者ハ株主ノ権利ヲ行使スベキ者一人ヲ定ムルコトヲ要ス
3. 株主ノ権利ヲ行使スベキ者ナキトキハ共有者ニ対スル会社ノ通知又ハ催告ハ其ノ一人ニ対シテ之ヲ為スヲ以テ足ル

会社法

第106条株式が2以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。