法エールVol.30

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ご挨拶

熊本県では、平成23年4月1日から、熊本県暴力団排除条例(以下、排除条例とします。)の一部が施行されています。この排除条例は、「暴力団の排除は、県民生活及び経済社会に悪影響を及ぼす暴力団が社会的に認められないものであるとの認識の下に、県、市町村、県民、事業者及び関係機関が相互に連携し、協働して行なう」ことを基本理念とするものですが、同年7月1日からはこの排除条例の全部が施行されます。今回施行されるのは、標章の掲示規定です。これは、新市街などの暴力団排除特別強化地域にある居酒屋やスナック等の酒類提供飲食店等が、その店舗に暴力団員が立ち入ることを禁止する旨を記載した標章を出入り口の見やすい場所に掲示していれば、そこには暴力団員は立ち入ることができず、また、この規定に違反して同員が立ち入っている場合には、その立ち入りの中止(店舗から追い出す)を命ずることができるとするものです。

今年は、九州新幹線が全線開通し、来年は、熊本市が政令指定都市に移行します。この条例の施行により、熊本県民だけではなく県外からも多くの人が安心して来訪できる地域環境の整備がより推進されればと思います。

それでは、今月号も宜しくお願いします。

(代表社員 大島 隆広)

震災に関する法律相談Q&A

今月も前回に引き続き、震災に関する法律相談Q&Aです。今回はQ12から説明します。

Q12. 地震によってリース契約のコピー機が壊れてしまいました。契約はどうなりますか。

A. リース物件が地震等の不可抗力により滅失した場合、リース業者が物件を使用収益させることができませんので、リース業者は、リース料の支払を求める権利を失うのが原則です。

ところが、リース契約では、特約により、リース期間中、物件が地震等の不可抗力で滅失・毀損した場合、ユーザーには契約解約権はなく、原則として契約で規定された損害金を直ちに支払うとしているところが多いです。

また、リース物件の一部がユーザーの責に帰さない事由により滅失・毀損したときでも、滅失部分に応じたリース料の減額請求はできず、残存部分のみではリースした目的を達成できないときでもユーザーに解約権は生じません。ただし、リース物件には、通常、リース業者により、動産総合保険がかけられているので地震保険も付けられている場合はまれですが、地震による保険金が支払われた場合には、ユーザーの規定損害金負担は軽減されることになります。

 

Q13. 住宅ローンが相当額残っていますが、地震で自宅が全壊してしまいました。その上、勤務先も地震のため廃業することになり、現在収入が全くありません。再就職をしたいのですが、自宅の倒壊でケガをしてしまい、治療中で就職活動を開始できる見通しも立っていません。このような状態ではローンを返せません。どうしたらよいでしょうか。

A. 借入先金融機関が救済措置を設けた場合、これを受けることも考えられますが、返済の見通しが全く立たない場合には、破産手続開始・免責許可の申立てをし、財産債務を清算することを考えるべきでしょう。

 

Q14. 震災を理由に労働者が欠勤しています。欠勤をしていても給与を支払わなければならないのでしょうか。

A. 解雇はできませんが、給与を支払う義務も原則としてありません。

もっとも、雇用調整助成金等の助成金を受けられる可能性もありますので、震災時には政府の動向にも注意が必要です。

 

Q15. 使用者から震災を理由に一時帰休(レイオフ)を命じられました。会社からはその間給料が減額になるかまたは全く支給できないかもしれないと言われました。どうしたらよいでしょうか。生活が成り立たなくなるので、その間アルバイトをしたいのですが、就業規則上の兼職禁止条項に違反することになってしまうのでしょうか。

A. 一時帰休がやむを得ないものであれば、同命令に従わざるを得ません。使用者に損害が生じるような態様でなければ、アルバイトをすることは問題ありません。

兼職禁止違反については、会社の職場秩序に影響せずかつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生じさせない程度・態様の二重就職は禁止違反とはならず、したがって懲戒処分の対象にはなりません。一時帰休期間中であればそもそも支障の対象となる労務の提供が存在しませんし、その間アルバイトをすることにより会社の職場秩序に影響が出るとも考えられませんので、その間のアルバイトも禁止違反とはなりません。

ただ、例えば競業会社の役員への就任などは、一時帰休期間中であったとしても、顧客や他の従業員の移籍など会社の職場秩序等に大きな影響を及ぼし会社に損害を与える可能性が高いですから、禁止違反に該当し懲戒処分の対象となります(東京地判平3・4・8労判590・45)。

 

Q16. 震災により会社の資金繰りが悪化し、一部の従業員を解雇したいと考えているのですが。

A. 整理解雇4要件を満たせば、解雇は可能です。

整理解雇については、①人員削減の必要性(業績の悪化等)、②人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性(配転、出向、一時帰休、希望退職の募集等他の手段により解雇回避の努力を果たしているか)、③被解雇者の選定の妥当性(客観的合理的基準を公正に適用して被解雇者を選定しているか)、④手続の妥当性(労働組合・労働者と十分に話し合い、説明をしたか)を満たしているか検討し、総合的にその有効性が判断されます(長崎地大村支判昭50・12・24判時813・98、東京高判昭54・10・29判時948・111、東京地決平12・1・21労判782・23)。震災を理由とする解雇であっても、上記4要件を満たしているか十分に検討の上、実施すべきです。

もっとも、震災という緊急事態ですから、上記4要件を充足する場合も多いのではないでしょうか。

なお、使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のため休業する期間および、その後の30日間はその労働者を解雇できません(労基19①)。しかし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には、行政官庁の認定を受ければ、同期間中でも解雇は可能です(労基19①ただし書②)。

 

Q17. 既に採用内定を出しているのですが、その後の震災により一部の事業所が損壊し採用内定者を実際に採用するのが困難な状況になりました。採用内定を取り消すことはできますか。

A. 整理解雇に準じた厳しい要件を満たす必要がありますが、地震により企業規模縮小を余儀なくされた場合には、採用内定の取消しも客観的に合理的で社会通念上相当と是認される可能性が高いと思われます。

 

以上、3回にわたり震災に関するQ&Aをご説明してきましたが、新しい法律が成立したり、取扱上の便宜で法律とは違った結果となる場合もありますので、その点はご了承ください。

法律相談をご希望される方は、司法書士会、弁護士会、法テラス等をはじめ、当法人でもご相談をお受けしておりますので、ご連絡ください。

[参照]Q&A災害時の法律実務ハンドブック新日本法規出版

判例紹介

ペットをめぐる近隣トラブル

横浜地方裁判所 昭和61年2月18日 判決

(概要)

隣家(Aさん夫婦)の飼犬が、深夜・早朝と連日鳴き声をあげたため、Bさん夫婦が不眠・神経衰弱になり隣家の飼主に対し損害賠償を請求した。

(判決)

「犬は、本来、吠える動物であるが、無駄吠えを抑止するためには、飼主が愛情をもつて、できる限り犬と接する時間をもち、決つた時間に食事を与え、定刻に運動をする習慣をつけるなど規則正しい生活の中でしつけをし、場合によつては、専門家に訓練を依頼するなどの飼育が肝要であること」と述べたうえで、以下の事実を認定し、Bさん夫婦に損害賠償(30万円)を認めた。

  • 7~8メートルの針金製係留ロープが張ってあり、適宜シェパードをこれにつないでいたが、Aさん夫婦の飼い犬がAさん夫妻と一緒に運動させられることは殆どなかったこと
  • Aさん夫婦はシェパード及びマルチーズをそれぞれ1~2匹飼っていたところ、ジョニーと呼ばれたシェパードは特によく鳴く犬で、Aさん夫婦が留守の時には一晩中でも吠え続けてBさん夫婦を悩まし、マルチーズもまた、甲高い声で鳴き続け、その程度は極めて異常と言わざるをえないものであり、Bさん夫婦は精神衰弱状態となり、妻は失神することもあったほどであったこと

(解説)

ペットをめぐる近隣トラブルは非常にデリケートな問題です。近年のペットブームで犬や猫、その他の動物を家族の一員として接することも珍しいことではありません。しかし、特に犬は鳴き声で周辺に迷惑をかけることもあり、判決の中で述べられているとおり、しつけが重要になってきますね。

今回の損害賠償額は30万円と、ペットをめぐる紛争は少額であることが多く、できるだけ話し合いによる解決を図っていくことができるといいですね。

司法書士日記

~当法人の司法書士が、趣味の話や最近の出来事など、ざっくばらんに書いていきます~

もう夏本番ですね。夏と言えば、毎年7月の第一日曜日は司法書士試験が行われるのですが、この時期になると、やはり自分の受験時代を思い出します。

私は毎年、地元熊本で受験していたのですが、合格した年の受験番号は「111」番。実はこの番号は、偶然にも初めて受験した時の受験番号と同じだったのです!ぞろ目なので、いい結果がでるような、でも不合格になった時と同じ番号なので今回も・・・と複雑な心境で受験したのを覚えています。今となっては、懐かしい思い出です。

司法書士試験を始め、目標に向かって取り組まれている皆様に心からエールを送りたいです!

(健軍事務所 司法書士 山﨑 順子)

コラム

~人の最後に接して思うこと~

私の父は、今年で満83歳を迎えます。親友たちの両親もほぼ同じ年齢のため、毎年亡くなる方が増えています。先日も、親友のお父様が亡くなられ、その通夜に参列したのですが、感じることがありました。

まず、自分が人生の最後を迎えた時、交際のあった方々に、生前の業績など以上に、「あの人は親切で心の暖かい人だったね。」「いつも元気で、笑顔に満ちていたね。」などの思い出を残したいということ。

次に、自分がこの世に生まれ、何者にも代えられない尊い使命を授けられたことに思いを致し、毎日を懸命に生き続けなければならないということ。

人の顔がみな違うように、人に授けられ使命はそれぞれ違います。それを一日も早く気付き、命のあることに感謝しつつ、自分の使命達成に向けて力強い人生を歩んでゆければと思うのです。

(清水事務所 藤田 賢司)

お知らせ

当法人では、継続的な相談にも対応できるよう、顧問契約の締結も行っています。

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