賃貸借契約における通常損耗の原状回復

平成17年12月16日/最高裁判所第二小法廷/判決

平成16年(受)第1573号

 

(事実の概要)

Xは、Yから住宅を賃貸していたが、その契約を解除して住宅を明け渡した。YはXが差し入れていた敷金のうち、金30万2547円は本件住宅の補修費用として、通常の使用に伴う損耗(以下「通常損耗」という。)についての補修費用を含めて返還していない。残りの金5万1153円はXに返還された。Xは、未返還金30万2547円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて上告した。

 

(判決の要旨)

賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。

 

(解説)

住宅を賃貸している場合、壁が日光で変色したり、家具で床に傷がついたりするものです。こういった通常の使用による損耗(キズ)の修理(原状回復)を賃貸人と賃借人どちらが負担するのか、という点が争われました。判決は、「通常の損耗に係る投下資本の減価の回収は・・・賃料の中に含ませて」いるとし、

①通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されている

②賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されている

などの事情がない限り、通常損耗の修理(原状回復)は賃貸人が負う、としています。前回賃貸借契約を説明した際一番最後にお伝えしましたが、原状回復はたいてい契約終了時に問題となります。そこで、契約する時点で賃貸人と賃借人どちらが負担するのかを明確にし、後々の紛争を防止することが重要です。