敷金返還請求権の発生時期について

最高裁判所昭和49年9月2日判決(昭和48年(オ)第30号家屋明渡請求事件)

 

<事実の概要>

Y(被告、被控訴人、上告人)とAとの間でA所有の本件建物(なお、Bを抵当権者とする根抵当権を設定されていた。)の一部について賃貸借契約を締結した。その際に、YはAに対して敷金800万円を支払っていた。その後、根抵当権が実行され、X(原告、控訴人、被上告人)が競落した。

XはYに対して建物の明渡を求めて訴訟を提起した。

しかし、Yは敷金の返還をまだ受けていないから、敷金の返還を受けるまで明渡しはしないと反論した。

1審ではY勝訴、原審ではX勝訴。そこで、Yが上告した。

 

<判決の内容>

上告棄却。

「賃貸借における敷金は、賃貸借の終了後家屋明渡義務の履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのある一切の債権を担保するものであり、賃貸人は、賃貸借終了後家屋の明渡がされた時においてそれまでに生じた右被担保債権を控除してなお残額がある場合に、その残額につき返還義務を負担するものと解すべきものである・・・・。そして、敷金契約は・・・・賃貸借契約に付随するものではあるが、賃貸借契約そのものではないから、賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、一個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものとすることはできず、また、両債務の間には著しい価値の差が存しうることからしても、両債務を相対立させてその間に同時履行の関係を認めることは、必ずしも公平の原則に合致するものとはいいがたいのである。・・・・賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく、したがって、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではないと解する・・・・。」

したがって、賃貸人は賃借人に対し賃借物の明け渡しを請求した場合、賃借人は敷金返還との同時履行を抗弁として主張することはできない。

 

<解説>

判決でも述べられているとおり、敷金返還請求権の発生時期は、建物明渡時に発生することになります。つまり、賃借人は、賃借物を明け渡した後に初めて、敷金の残額を返還請求することができる、ということになります。

敷金と建物そのものの価値には、著しい価値の差があるので、敷金返還請求権と建物明渡請求権は同時履行の関係に立たないとする本判決は妥当だと思います。

しかし、そうすると、賃借人は建物を明け渡したが、敷金が返還されないという状況も考えられます。このようなトラブルを避けるためにも、賃貸人と賃借人との間で、信頼関係を築いておくことが重要だと思います。