兼職

東京地裁昭和57年11月19日決定

(昭和57年(ヨ)第2267号地位保全仮処分申請事件)

 

<事実の概要>

Xは、Y会社に雇用され勤務していた。一方で、XはY会社に勤務(午前8時45分から午後5時15分まで)するかたわら、キャバレーにおいても就労(午後6時から午前0時まで)していた。Yは、上記就労が会社就業規則(「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われたとき」)に該当するので、懲戒解雇にすべきところを通常解雇にとどめるとして、通常解雇の意思表示をなした。これに対して、Xは上記解雇の無効を主張したが、裁判所は、Xの地位保全・賃金仮払いの申請をいずれも却下した。

 

<決定要旨>

申請却下

私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の定めによるが、労働者は労働契約を通じて1日のうち限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、それ以外については自由な時間であるから、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。

しかし、労働者が自由な時間を適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供のための基礎的条件であるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用については当然関心を持ち、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用・体面が傷つけられる場合もあるので、従業員の兼業の許否に労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮した上での会社の承諾を必要とする規定を就業規則に定めることは不当とはいえない。

また、Xの兼業の職務の内容に関わらず、XがYに対して兼業の具体的職務内容を告知してその承諾を求めることなく、無断で二重就職したことは、それ自体が企業秩序を阻害する行為であり、Yに対する雇用契約上の信用関係を破壊する行為と評価されてしまうものである。

そして、Yの就業時間と重複してはいないものの、毎日の勤務時間は6時間にわたりかつ深夜に及ぶことを考えれば、単なる余暇利用のアルバイトの域を越えるものであり、したがって兼業がYへの労務の誠実な提供に何らかの支障をきたす可能性が高いとみるのが社会一般的であり、事前にYへの申告があった場合には当然にYの承諾が得られるとは考えにくく、本件Xの無断二重就職行為は不問に付して然るべきものとは認められない。

よって、解雇が権利濫用により無効であるとは認めることができない。

 

<解説>

決定要旨でも述べられているとおり、兼業禁止のルールは法律で定められたものではなく各々の会社独自のルールです。とすると、通常、労働者の自由な時間まで影響を及ぼさないので、兼業は基本的には問題ない行為と考えられます。

しかし、今回のケースにおいては、Xが無断で兼職を行うことで、当然Yとの信用関係を破綻させ、また、Yへの労務の提供に悪影響がでることが高いと予想されるような兼業を行ったことにより、今回のような決定が出されたのだと考えられます。

結論として、労働者は仮に兼業をする際には、まずは、既に在籍している使用者に相談することが好ましいということです。一方で、使用者は兼業は完全禁止という頑なな方針は法律的にも問題となる場合もありますので、柔軟な対応を心掛ける必要があるでしょう。