自筆証書遺言の方式 ― 押印

最高裁平成6年6月24日第二小法廷判決

(平成6年(オ)第83号:遺言無効確認請求判決に対する上告申立事件)

 

〈事実の概要>

X(原告・控訴人・上告人)は亡Aの後妻であり,Y1ら5名(被告・被控訴人・被上告人)は亡Aの先妻の子である。亡Aは自筆証書遺言を作成していたが,同遺言書自体には押印はなく,これを封入した封筒の封じ目に押印がなされていた。(おそらく遺言書の内容はXにとって有利な内容になっていたものと思われます。)

Xは,本件遺言書自体に押印がないと主張して,Y1ら5名に対し,その無効確認を求めた。1審は,遺言書の同一性,遺言の真意性および完結性を担保するのに欠けるところはないとして,Xの請求を棄却した。

2審は(東京高判平成5・8・30)は,民法968条1項によれば,自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付および氏名を自書し,これに押印することを要するが,同条項が自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は,遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性および真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保するところにあると解されるから,押印を要する前記趣旨が損なわれない限り,押印の位置は必ずしも署名の名下であることを要しないものと解するのが相当であるとした。これに対し,Xは上告した。

 

〈判旨〉

上告審は,控訴審(2審)の認定した事実関係を前提にして,その判断を是認し,次のように判示して上告を棄却した。

「遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印をもって民法968条1項の押印の要件に欠けるところはないとした原審の判断は,正当として是認することができ」る。

 

〈解説〉

今回の遺言書は,書簡形式の特殊な形態で,本文には自署名下に押印はないが,それが遺言書という重要文書であったため封筒の封じ目の左右に押印したものと考えられるとして,本件遺言書は自筆証書遺言の性質を有するものであるということができるとしました。しかし,やはり後日紛争の可能性がありますので,自署名の下に押印する方が望ましいでしょう。

 

 (自筆証書遺言)

民法 第968条

1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を 指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、 かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生 じない。