事業承継 ③

今回は事業承継の3回目です。事業承継では、自社株をどのように分けるかがとても重要になりますので、その際の注意点を、前回からの続きでご説明します。

遺言書

遺言書の作成は、経営者の意思を伝える有効な方法の一つです。遺言書で、後継者に自社株を与えるとしておけば、争いを未然に防ぐことができます。

ただし、遺言書作成の場合に注意することがあります。それは、遺留分です。相続財産のうち、一定の割合を相続人に残すことが保証された制度で、相続人が子どもの場合は、相続財産の2分の1が遺留分となります。仮に長男にすべての財産を相続させると遺言書に書いていても、他の相続人が遺留分を請求してきたら、相続財産の一部を渡さなければならなくなります。

この遺留分を無視すると、後々紛争の火種にもなりかねません。遺留分のリスクは少しでも回避する必要があります。そのため、死亡保険金や死亡退職金等を活用したり、遺留分の生前放棄、遺留分に関する民法の特例を利用することが考えられます。

遺留分の生前放棄は、経営者の推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべきものをいいます)が、家庭裁判所の許可を受けて生前に遺留分を放棄する方法です。遺留分を生前に放棄してもらえれば、遺言者の重い通りに財産を承継させることができ、心おきなく遺言書を残しておくことができます。

しかし、生前に遺留分放棄の申立てを推定相続人全員がしてくれても、裁判所が許可を出さないケースもあります。推定相続人の一人でも許可がおりなかった場合は、効果が半減します。

そういう場合に、遺留分に関する民法の特例を使うこともできます。これは、一定の要件を満たした中小企業の後継者(前回の例でいえば長男)が、経営者の推定相続人(前回の例でいえば長男以外の子2人)全員と書面で合意し、所定の手続き(経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可)をすれば、後継者が経営者からの贈与等により取得した株式等の遺留分算定に入れないでいいというものです。また、将来にわたって自社株の価値が増加すると、相続の際に、相続税の額が跳ね上がる可能性がありますが、上記の手続きの際に、株式の評価額を生前贈与したときの評価額に固定することもできます。そうすると、将来自社株の評価がいくら上がったとしても、相続税の心配をする必要もありません。

遺言書では、後継者になるべく財産を残すように書かれる方が多いのですが、他の相続人にも配慮して、遺留分まではいかなくても、ある程度バランスのとれたものがいいのではないかと思います。

生前贈与

贈与の場合は、贈与税が一番の問題となります。贈与税は、毎年110万円までは非課税であるため、これをうまく使って生前贈与する方法もあります。それ以外の方法では、相続時精算課税制度というものがあります。

相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、2,500万円まで生前贈与しても贈与税は課税されないというものです。

この制度を使う例として、現在自社株の相続税評価額がそんなに高くないが、将来上がることが予想される場合があります。この制度を使うと、贈与したときの評価額が相続時の相続財産の額となるため、将来評価額が上がるのであれば、早めに贈与しておいた方が、株価の値上がり分だけ節税となります。ただ、この制度にはデメリットもありますので、事前に専門家に相談されることをお勧めします。

生前贈与の場合は、なるべく自社株の評価が低い時に、タイミングをみてするのが賢いやり方かもしれません。

種類株式

通常の株式には、株主総会で議決権を行使したり、配当をもらえたりする権利があります。しかし、株主の中には、経営に参加しないで配当金だけ欲しいという人もいますし、会社も資金調達はしたいが、議決権を行使されるのは困るということもあります。そのため、さまざまなニーズに応えることのできる種類株式というものがあります。

種類株式には、配当を優先し議決権を制限する株式や、議決権のみを制限する株式、会社が一定の事由が生じたときに株式を取得することができる株式等、さまざまなものがあります。

種類株式を事業承継でうまく使うことで、会社に利益となることが多々あります。例えば前の例で、長男に承継させたいが遺留分も気になるとき、長男以外の子ども2人に、議決権のない株式を相続させるとしておけば、長男だけが議決権をもち、それ以外は株式という財産は相続するが、株主総会で議決権を行使できないという状況を作り出すことができます。これで、遺留分の問題がクリアでき、経営権も侵されないことになります。

種類株式は、いろいろなバリエーションがありますので、自社にあったものを取り入れると、事業承継がうまく運ぶこともあります。事業承継は、その会社ごとで異なりますので、専門家とも相談しながら、承継計画をたてられてみてもいいのではないでしょうか。当法人では、事業承継を全面的にサポートし、企業の永続性に貢献していきます。