子の命名権 ~悪魔ちゃん事件~

東京家裁八王子支部 平成6年1月31日 審判

事案の概要

 

X(申立人:父)は、平成5年8月2日、A市役所に対し、「悪魔」という名が受理されるかどうか問い合わせたところ、受理されるとの回答を得て、同月11日に長男「悪魔」の出生届出をなし受理された。

 

しかし、戸籍課職員の間で本件名の適法性につき疑問が生じ、上級監督官庁とも相談の上、A市は、本件名が社会通念から見て明らかに不当で、使用を許されない違法な名であるとして、未受理状態を維持し、後に単なる「誤記」の扱いで抹消の上、Xに氏名の追完を求めた。

 

Xは、「悪魔」という名は、戸籍法50条に規定する制限内の文字からなり、A市長がこれを拒否した上、一度受理された本件名を抹消した処分は不当として、受理手続の完成を申し立てた。

 

判旨

 

本件命名の違法性について

 

「名は氏と一体となって、個人を表象、特定し、他人と区別ないし識別する機能を有し、本人または命名権個人の利益のために存することは勿論であるが、…極めて社会的な働きをしており、公共の福祉に係るものである。従って、社会通念に照らして明白に不適当な名や一般の常識から著しく逸脱したと思われる名は、戸籍法上使用を許されない場合がある。」「本件『悪魔』の命名は、本件出生子の立場から見れば、命名権の濫用であって、…例外的に名としてその行使を許されない場合、と言わざるをえない。」

 

その後の経緯

 

Xは「名前がない状態がこれ以上続くのは子どもにとってよくない」として、東京家裁八王子支部に対する不服申し立てを取り下げ、事件は終了した。

 

解説

 

戸籍法上は、「悪」も「魔」も使用が認められた文字ではありますが、本件のように熟語としての意味・内容に立ち入った判断を職権で不受理とされるかが争われた事件です。これは「親の命名権」をどう考えるかという問題ですが、たとえ、親の主観的意図がどうであれ、命名される子の将来に著しい悪影響が予想され、いわれのない差別を受け、その利益を著しく害すると考えられるときは、一定の制約を受けることもやむを得ないでしょう。