遺言書の破棄 ・ 隠匿 行為と 相続 欠格(相続人の資格喪失)について

最高裁判所 平成9年1月28日 判決

 

事件の内容

Aさんは、昭和60年2月頃、「土地を売り、その売却代金を自分が会長的立場にあったB会社に寄付するから、同社の代表取締役であり長男であるYは、同社の債務の弁済に充てること、また、他の兄弟Xその他もこれを承諾すること。」という趣旨の遺言書を自分で作成し、これをYさんに預けました。その後、Aさんは他界しましたが、上記遺言書が所在不明となったため、Yさんはそれを他の相続人に示すことが出来なくなりました。このため、相続人間で遺産分割協議が行なわれ、「Aの遺産全部をYが相続する。YはXに対し3,500万円を支払う。その他の相続人は一切相続しない。」という内容の分割協議が成立しました。しかしその後、Xは、Aが遺言書を残していたことを知りXが受け取ることのできる財産はもっと多かったのではないかと考え、Yが遺言書を偽造または破棄・隠匿した等を理由として、相続権不存在及び遺産分割協議無効の確認を求め訴えを提起しました。

 

判決の内容

「相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、その相続人は相続人である資格を失わないと解するのが相当である。」

 

相続に関する被相続人(本件ではAさん)の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は、当然に相続人になれません(民法第891条5号)。これは、遺言に対する著しく不当な干渉行為をした者に対するペナルティーです。

 

本件でのYさんは、遺言書の保管者でありながら、管理が不十分であったためか遺言書の所在が不明となり、これが遺言書の破棄または隠匿にあたるとして訴えを提起されたわけです。この点に関し、本判決は, 遺言書を故意に破棄または隠匿するだけでは足りず、破棄または隠匿することにより、不当の利益を得ようとする目的までも必要であるとしたのです。この「不当の利益を得ようとする目的」ですが、自己に対し全遺産を遺贈する内容の遺言につき、法定相続分の取得でよいと考えて遺言書を破棄した場合等には、この目的がないと言えるようです。

 

遺言書には、遺族に対する故人の切実な思いが込められています。死者の最終意志を尊重するという法律の精神からして、遺族の方も故人の遺志を最大限尊重し、遺産相続争いができる限り生じないよう心掛ける必要があるようです。