成年後見って何?①

最近、次のような話を聞くことがよくあります。

  • 認知症のすすんだ父親が入所する有料老人ホームへの費用を支払うため、銀行へ父名義の預金の払出しにいったところ、「お父さんの判断能力が衰えていらっしゃるのなら、家庭裁判所で成年後見人を選んでいただかないと払出しはできません。」と言われて困った。
  • 母が認知症で、入院費に充てるため母名義の不動産を売却しようと思い、不動産業者に相談したところ、「今のお母さんの判断能力では売却するのは難しいので、成年後見人を選任する必要があるでしょうね」と言われて戸惑った。

たしかに突然、「判断能力」「成年後見人」「家庭裁判所」など耳慣れない言葉を言われても何のことかわからないのは当然かもしれません。

自分で判断する能力が不十分な人々(認知症高齢者・知的障害者・精神障害者等)を保護するためのしくみとして、平成12年4月1日から成年後見制度がスタートしました。

成年後見制度とは、一言で言うと、判断能力が不十分になっている人々を法的に支援する制度です。

成年後見制度には、高齢社会に対応したり、知的障害者・精神障害者等の福祉を充実させるために、次のような新しい考え方が活かされています。

  1. 自己決定の尊重(本人が自分で判断して決めることを尊重する)
  2. 残存能力の活用(本人が残された能力を最大限使って生活する)
  3. ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような社会をつくるという考え方)

認知症の人や障害のある人の中には、一人では預貯金の出し入れや日常の買い物ができない人もいます。知的障害のある人の中にも、絵を描くことは好きでも、自分で画材道具を買ったりすることはできないという人もいます。そのような方々のために、「成年後見人」「保佐人」「補助人」といった法律で決められた代理人を選任し、本人に代わって預金の出し入れや介護契約など、一定の法律行為を行うことになります。なお、残存能力の程度(本人がどの程度自分でできるのか)の違いによって、後見・保佐・補助の支援内容が異なってきます。

成年後見人等はこれらの考え方を前提にして、いつも「本人のために何が最適な後見なのか」を考えながら活動することになります。

本人が判断能力が衰えてきたからといって当然に成年後見人が現れるわけではなく、一定の親族等が家庭裁判所へ申立てをしなければなりません。(※)成年後見人の選任が申し立てられるケースはさまざまです。

例えば・・・

  • 判断能力が不十分な人の預貯金の払出し
  • 判断能力が不十分な人を含めての遺産分割協議
  • 障害者施設との入所契約の締結
  • 高齢者が悪質商法に騙されたときや騙されないようにするため
  • 認知症の親の生活費等にあてるために土地を処分する必要があるとき
  • 知的障害のある子供の将来に備えておくため

このように成年後見制度は人生の中で誰しもが関わる制度といってもいいかもしれません。

次回は具体的にどのようにして成年後見人・保佐人・補助人を選任するのか、また、成年後見人・保佐人・補助人の仕事についてご説明いたします。

(※)民法7条では、「本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる」と規定しています。また、65歳以上の人、精神障害者、知的障害者であって、本人の福祉を図るために特に必要がある場合は、市町村長も申立てを行うことができます。(老人福祉法32条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2、知的障害者福祉法28条)