法エールVol.112

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ご挨拶

4月になり各学校で入学式が行われます。希望と不安な想いが交錯する心境で、新しい環境に挑む新入生の方もおられると思います。そして、新入生だけでなく、そのような心境で、保護者・教職員の方々が、新たな教育環境を迎えたのが、先般開校した「WING SCHOOL」であったと思います。私も、開校式に来賓として出席させていただきましたが、目の前にいる個性に満ち溢れた小学生・中学生がこれからの日本を牽引してくれるのかと思うと目頭に熱いものを感じました。セレモニーのご挨拶では、新しい教育方針に基づく、新たな船出をし、過去の観念にとらわれずに、経済界の方も含めた組織で、熊本から理想の教育のための一歩を踏み出し、スタートさせ、これを全国へ広めていきたいとありました。また、子どもたちが「幸せな未来を築く力」を身につけ、「やりたい」という感性を大切にし、自分らしく輝いて生きていける「新しい時代」を築いていきたいという思いを感じとることができました。

新しい環境づくりに取り組み、理想を現実にしていこうとする未知なる世界へ挑戦をされている方々に敬意を表するとともに、「後世畏るべし」とあるように、若い人に、より良い未来を創造していく環境を整えていけるよう、自らも現在(いま)持つ自己の最大限の価値を発揮し続け、自己実現に向け取り組んでいきたいと思いました。

新たな視点で、やる気をださせてくれた時間を過ごさせていただいたことにも感謝したいと思います。

それでは、今月の法エールもよろしくお願いします。

(代表社員 大島 隆広)

遺産承継業務(相続財産の管理や処分業務)について

司法書士による遺産承継業務(相続財産の管理や処分業務)は、平成14年の司法書士法の改正により司法書士法施行規則第31条によって明文化され、新たに取り組み出した業務です。そのため、皆様は、ある方が亡くなって銀行預金の解約や、証券会社での株式名義書換手続きを、司法書士が相続人全員の代理人として行えるケースがあることは、あまりご存知ないかもしれません。そこで、今月から3回にわたり、遺産承継業務についてお伝えいたします。第1回目は、司法書士による遺産承継業務の紹介です。

「遺産承継業務」とは…

裁判所から選任される相続財産管理人とは異なり、相続人からのご依頼による「任意の相続財産管理人」として、司法書士が相続人全員から依頼を受けて、遺産承継のために必要な管理・処分を行う業務(以下「遺産承継業務」といいます。)を行うことができます。

銀行や証券会社などの相続にもとづく手続きは、非常に煩雑であったり、また体が不自由で移動も大変だったりなど、相続人がご自身で行うのは、困難なこともあります。

そこで、司法書士を相続財産管理人にすれば、相続人の代理人として金融機関等の手続きを代わりに行うことができます。

遺産承継業務の主な内容

遺産承継業務の主なものとして、司法書士が次のような業務を行います。

  • 戸籍謄本等の収集による相続人の確定
  • 相続関係説明図の作成や法定相続情報(法務局発行)の申出書の作成
  • 公正証書遺言の有無の照会
  • 財産調査(預金、株式、保険、不動産等)
  • 財産目録の作成
  • 遺産分割協議書の作成
  • 預貯金等の解約手続き、残高証明書の発行手続き
  • 株式、投資信託等の名義変更及び換価手続き
  • 相続不動産の売却、換価手続き
  • 保険金、給付金の請求

今月は遺産承継業務とは何かということでお伝えいたしました。来月は、遺産承継業務のメリットや注意事項についてお伝えしたいと思います。

判例紹介

預貯金債権の相続(預貯金債権は遺産分割の対象となるか)

最高裁大法廷 平成28年12月19日 判決《平成27年(許)第11号》

事案の概要

被相続人甲の相続人はAとBの二人(相続分は各2分の1)であり、甲の遺産は、次の1,2のとおり。なお、Bは生前甲より5,500万円の贈与を受けていた(特別受益(※))。

1.不動産250万円
2.預貯金4,500万円

従来の判例(最高裁平成16年4月20日判決)では「普通預金・定期預金等は、共同相続人が当然(相続発生と同時に)相続分に応じて分割して取得するものであるので、原則として遺産分割の対象とはならない」と判示していた。そのため、従来の判例の考え方に基づいて、AとBの相続分を計算すると以下のとおりとなる。

(250万円 + 5,500万円[Bの特別受益])× 1/2 = 2,875万円

Bは生前に特別受益として5,500万円の贈与を受けているので、特別受益の持ち戻し(5,500万円を相続財産として計算すること)をすると5,750万円(預貯金除く)となり、A・Bそれぞれの取得する財産は計算上2,875万円となる。実際は、Aは不動産の250万円と預貯金の2分の1の合計2,500万円のみを取得することになり、一方Bは特別受益として既に5,500万円を受け取っていることから、協議の対象である不動産は相続できないものの、協議を必要としない預貯金の半分2,250万円を取得し、生前に受け取った5,500万円を合わせると7,750万円を取得することになる。原審(高裁)は従来の判決に従い、預貯金については遺産分割の対象とならないと判断したため、Aが上告したものである。

(※)特別受益とは、相続人の中に特別に被相続人から利益(事業資金等の贈与)を得ていた人がいる場合の、その受けた利益のことをいいます。この特別受益が認められると、その相続人の特別受益分について遺産取得分が減額されます。

裁判所の判断

共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。

理由としては、1.遺産分割は、共同相続人間の公平を図るため、被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいこと、2.預貯金は、確実かつ簡易に換価できることから現金とほぼ同視されていること(現金は従来より遺産分割の対象とされている)、3.預貯金は、一個の預貯金債権として保持されるが、常に残高は変動しており、共同相続人間に確定額の債権として分割することは難しいこと、4.定額預金債権が相続により分割されると解すると、多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理するために分割払いを制限した趣旨、定額貯金に係る事務の定型化、簡素化の趣旨に反する、といったことが挙げられる。

この考え方によると、被相続人甲の相続財産の総額は1億250万円(4,500万円(預貯金)+ 5,500万円(特別受益)+ 250万円(不動産))となり、A・Bが取得する相続財産は次のとおりとなる。

A ・・・ 1億250万円 × 1/2 = 5,125万円
ただし、預貯金4,500万円と不動産250万円が上限となり、合計4,750万円

B ・・・ 1億250万円 × 1/2 = 5,125万円
ただし、生前に特別受益として5,500万円を受け取っているため、0円

コメント

相続が開始した場合の預金の払い戻しについては、各金融機関で必ずしも統一されていなかったようですが、相続分に応じた金額の払い戻しを認める運用もされていたようです。今後は、そもそも相続分に応じた金額の払い戻しに応じてよいのかという問題が生じることになると思われます。遺産分割協議が調わない限り、預貯金の払戻しが一切できないとなると、被相続人の入院費や税金、相続人の当面の生活費などの支払いに窮することが想定されます。

これに対しては、現国会に提出されている相続法改正で「遺産の分割前における預貯金債権の行使」(改正法案第909条の2)の規定を新設し、一定の範囲で標準的な生活費や平均的な葬儀費用等の支払いについては、相続人が単独で行使できると法的に解決される見込みです。

また、家庭裁判所の遺産分割協議の実務では、遺産分割手続きの当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とする運用が広く行われていますが、今後は、当事者の合意がなくても遺産分割の対象になるのが原則になると解されます。

司法書士日記

いつも皆様には大変お世話になっております。私は、昨年3月まで、国家公務員(法務局)として働いていました。

第2の人生を司法書士として歩むことを決意し、昨年8月から幣法人に勤務しています。

公務員時代は「謙虚、慎重、根拠」という言葉を仕事の相棒にしてきました。

司法書士としては、まだ毎日が勉強の日々ですが、お客様の笑顔を心の支えに、これまでの経験を踏まえ、この事務所に頼んで良かったと思って頂ける司法書士を目指しています。

なお、プライベートでは、1歳の孫にメロメロの日々を送っているジョギング好きの爺さんです。

今後とも、よろしくお願いいたします。

(清水事務所 福永 一郎)

コラム

~桜並木~

4月に入り、暖かい日差しとぽかぽかの陽気に春の到来を感じられるようになりました。

熊本には、熊本城をはじめ水前寺成趣園や一心行の大桜など、たくさんの桜の名所がありますが、皆さんはお花見されましたか?

健軍事務所の近くには自衛隊通りがあり、毎日通勤で通う道なのですが満開に咲いた桜並木がとても綺麗でした。

今年の見頃は過ぎてしまいましたが、来年の開花も楽しみです。

(健軍事務所 荒木 知恵)

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