取締役の監視義務違反と第三者に対する 損害賠償責任 について

最高裁判所 昭和48年5月22日 判決

事件の内容

A株式会社の取締役であったYは、会社修理部門の仕事に専念し、会社の運営は一切代表取締役Bに任せきりにしていた。Bは事業拡張のため手形を乱発したが、A社は倒産するに至り、手形を所持していたXは手形金の支払を受けることができなくなった。このため、Xは、Bのみならず、Yに対しても、A社の倒産は、Yの監視義務の懈怠に起因するものであるとして、手形金額に相当する損害の賠償を求めたのが本件です。

判決の内容

「株式会社の取締役は、会社に対し、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視する職務を有するところ、Yにはその職務を行なうにつき重大な過失があるから、手形金額に相当する損害の賠償を命じた原審の判断は正当である。」会社の取締役・監査役等は、その職務を行なうについて悪意又は重大な過失があったときは、第三者(本件のような手形所持人や取引先)に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条)。本件Yのように実際に会社の業務を担当した平取締役だけでなく、会社の業務に全く関与せず単に人数合わせのために取締役として名義を貸した人も賠償責任を負うことがあります。特に、会社が倒産しその会社からはもう債権の回収が見込めなくなった場合に、債権者は、平取締役の個人財産を目当てに損害賠償請求訴訟を提起することもしばしばあります。

株式会社において取締役会を設置する場合には3人以上の取締役が必要なことから、名前だけの、非常勤で、無報酬の(あるいは報酬ありの)、名目的な取締役を依頼されることもあるかと思います。会社倒産という事態になれば監視義務違反による賠償責任を問われることがありますので、取締役の就任には充分に慎重な態度で望まれる必要があると思われます。また、役員間での活発な協議や意見具申は欠かせないようです。