法エールVol.48

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ご挨拶

近時、学校内のいじめ被害により、中高生が自死に至る報道等が目につきます。そこで、当法人と連携関係にある「NPO法人身近な犯罪被害者を支援する会」では、11月23日にくまもと県民交流館パレアにおいて、「いじめは止められる」をテーマにシンポジウムを開催しました。このシンポジウムは、「自死に至るいじめは、犯罪である」という認識のもとで開催されたものですが、60名の参加者と共にいじめ被害による自死をなくすための取り組みについて理解を深めました。

当日は、熊本県人権啓発キャラクター「コッコロ隊」による人権啓発活動PRが行われた後、基調講演では、「NPO法人全国いじめ被害者の会」代表の大澤秀明氏より、「いじめを止めるには、いじめ加害者に対し出席停止など現行の制度を学校側がより活用をする必要がある。」との主張がありました。

その後のパネルディスカッションでは、当法人より山﨑順子司法書士が登壇し、法務局の人権擁護課に対し人権侵犯被害調査を申し立て、必要に応じて説示などの対応をとってもらい、第三者がいじめ現場に介入することで、いじめ被害を止めることができるのではないかとの提案がありました。また、熊本大学大学院石原明子准教授からは、修復的正義の取り組みを活用した被害者・加害者との話し合いによる解決の紹介もされました。

本来、学業の場である学校の環境が、犯罪の温床になり、一人の生徒の大切な命が結果的に奪われていくことは、絶対に防がなければなりません。現在の制度の不備を解消し、社会全体でこの問題に向き合う必要があることを改めて認識致しました。今後も、当法人では、いじめ問題を含め犯罪被害者の法的支援に取り組んでいきます。

それでは、今月号もよろしくお願いします。

(代表社員 大島 隆広)

信託-後見制度支援信託について

前回は、信託の具体的な活用事例をご紹介しました。今回は今年から運用が開始された後見制度支援信託をご紹介します。なお、成年後見制度については、法エールNo4、5、6にも掲載しておりますので、そちらも是非ご覧いただければと思います。

 

1.「後見制度支援信託」とは

(1)仕組み

後見制度支援信託は、後見制度により支援を受ける本人(成年被後見人)の財産のうち、日常的な支払いをするものに必要十分な金銭を預貯金として後見人が管理し、通常使用しない多額の金銭を信託銀行等に信託、つまり預けておく仕組みのことです。親族後見人が後見人になった場合に、信託銀行等を利用して、本人の財産を安全かつ適正に管理できるようにすることを目的としています。

 

(2)手続きの流れ

  1. 家庭裁判所は後見開始申立の手続きの中において、後見制度支援信託の利用がふさわしいと判断した場合は、選任した専門職後見人(司法書士や弁護士等親族以外の後見人)に対し、信託利用を検討するよう指示をします。なお、このとき専門職後見人と併せて、親族を後見人に選任することもあります。
  2. その指示を受け、専門職後見人は本人の生活状況や財産状況を踏まえて、信託の利用が適当か否かの検討を行い、信託利用が適しているとの判断した場合には、「信託する財産の額」「日常的な支出に充てるための額」等を決めて家庭裁判所に報告書を提出します。
  3. その報告を受けて裁判所が発行した指示書を添付して、専門職後見人は信託銀行等と信託契約を締結します。
  4. 専門職後見人は、原則として辞任して親族後見人に事務を引き継ぎます。

 

(3)利用者

成年後見制度および未成年後見制度の被後見人の方が対象となります。成年後見よりも程度の軽い保佐や、補助、任意後見契約を締結している任意後見の場合は対象外となります。

 

(4)対象財産

信託の対象財産は金銭のみです。不動産や高価な物品等は対象外です。

 

(5)信託期間

信託契約期間は、成年後見の場合、原則として本人の死亡時に終了します。未成年後見の場合、成年に達した日が信託の終了となります。

 

(6)契約後

信託契約期間中は、後見人が管理する口座で必要資金が不足となった場合や、反対に本人に予定外の収入があり、後見人が管理する口座で金銭が多額になった場合には、後見人は家庭裁判所へ報告し、指示書を得て、信託財産の支払いの請求、または信託財産の追加をすることができます。

 

このようにすることで、親族後見人が本人の財産で普段使わない多額の金銭を手元に置いておくことなく、安全に管理することができ、本人の財産の保護が図られることが期待されます。

 

2.制度利用のメリット

後見制度支援信託の利用により、裁判所の指示書(許可)に基づいて信託銀行等が本人の財産を管理することとなるため、財産の安全・確実な保護が期待できます。つまり、後見人だけでなく、裁判所が関与することで、本人の財産がより安全・確実に守られることになります。

また、日常的な支出に加え、医療費等の突発的な支出も予想される中での「長期的な現金・預貯金管理」は、かなり困難な業務ですが、この制度の利用により、こういった財産管理の面での後見人の負担の軽減も期待されます。

 

これまで3回にわたって信託についてご紹介してきました。自分の意思に基づく財産承継の実現や老後の不安の解消、認知症発症後の不安解決にとって信託は有効な手段となり得ます。超高齢化社会の新たな解決策として信託は期待されています。

判例紹介

カプセル玩具誤飲事故

鹿児島地方裁判所 平成20年5月20日

<事案の概要>

Aちゃんの母親は、6歳の長男とともに、B社製のゲーム機の景品としてカプセルに入った玩具を取得し、自宅へ持ち帰った。長男、長女および事故当時2歳10カ月のAちゃんは、カプセルをボール代わりに遊んでいたが、Aちゃんがカプセルを手に持って走り回っていたところ、カプセルを口に持って行った瞬間にカプセル全体がAちゃんの口に入ってしまった。それを見ていた母親がAちゃんの口からカプセルを取り出そうとしたが、手の入るすき間もなく取り出すことができなかった。そのため、119番通報をしたが、その間にAちゃんは意識を失った。救急車が到着し、救急隊員が、カプセルを取り出そうとしたが、取り出せず、そのまま病院に搬送された。病院でカプセルを取り出すことはできたが、窒息による低酸素脳症の後遺障害(身体障害者一級の認定、いわゆる寝たきり状態)を負った。カプセルは、専用ゲーム機でゲームをすると、カプセル入りの玩具がゲーム機内から取り出し口にスムーズに出てくるように、プラスチック製の二つの半球体を組み合わせたもので、直径は約40mm、ほぼゆがみのない球状をしており、空気抜きのための穴が一つ開いている。

カプセルには誤飲・窒息を引き起こす危険を有する設計上の欠陥があり、また、その欠陥について表示がないことは、表示上の欠陥にも当たるとして、製造物責任法3条に基づいて総額約1億8,000万円の損害賠償請求訴訟を提起した。

 

<裁判所の判断>

カプセルは直径40mmの球体であること、3歳未満の幼児でも最大開口量が40mmを超えることは珍しくないことからすると、3歳未満の幼児の口に入る危険性があり、口から取り出しやくするために球体ではなく角形や多角形とし、表面が滑らかでなく、緊急の場合に指や医療器具に掛かりやすい粗い表面とする、また気道確保のため、十分な径を有する通気口を複数開けておく等の設計が必要であった。

以上から、カプセルは、3歳未満の幼児が玩具として使用することが通常予見される使用形態であるにもかかわらず、3歳未満の幼児の口に入る危険、さらに1度口に入ると除去や気道確保が困難となり、窒息を引き起こす危険を有しており、カプセルは、設計上通常有すべき安全性を欠いていたというべきである。

しかし、自宅内で幼児の窒息事故を防止する注意義務は、一次的にはAちゃんの両親にある。母親は、Aちゃんがカプセルで遊んでいるのを漫然放置し、十分な管理、監督を行っていたとはいえない。Aちゃんらの損害のうち、B社はその3割を負担するのが相当である。として、B社は、Aちゃんに対しては、約2,526万円、両親に対しては、それぞれ50万円を支払う義務がある。

 

<コメント>

いわゆるカプセルトイ(俗にいうガチャガチャ、ガチャポン)について、設計上の欠陥があると認めたものです。裁判所は子どもが遊ぶ際に事故等が起きないようにする責任はまず親にあるものの、小さい子どもがこのような球体のもので遊ぶことは予想されるとして、今回のような判断になりました。

コラム

2013年の干支は「巳」(み)ですね。動物にあてはめると「蛇」です。「巳」という字は、胎児の形を表した象形文字で、「起こる、始まる、定まる」などの意味があるようです。

また、蛇は脱皮をすることから「復活と再生」を連想させ、餌を食べなくても長く生きることから「神の使い」として崇められてきました。七福神のひとつである「弁財天」は蓄財と芸能の女神ですが、蛇の形をした神として祀られていることも多いようです。また、蛇の抜け殻を財布に入れて蓄財を願うなど、お守りにする風習が今でも残っていたりします。

新しい年も皆様にとって良い年になりますように!

お知らせ

当法人では、継続的な相談にも対応できるよう、顧問契約の締結も行っています。

会社・個人問いません。詳しくはお近くの事務所までお気軽にお問い合わせください。

寄り添う支援で笑顔ふたたび

当法人は、「NPO法人身近な犯罪被害者を支援する会」との連携を図っています。
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TEL 096-341-8222 FAX 096-341-8333

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