法エールVol.46

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ご挨拶

当法人が支援する団体の一つとして、「NPO法人身近な犯罪被害者を支援する会」がありますが、このNPO法人が9月21日(金)、22日(土)の二日間にわたり、「いじめトラブル相談会」を実施しました。近時問題となっている学校でのいじめや職場・家庭内でのパワハラ、セクハラ・DVなどで悩んでいる方の相談に対応しようと開催されたものです。

この相談会では、事前に警察や法務局担当者等による研修会を受講した相談員が対応しましたが、電話、面談相談等を合わせ10件程の相談が寄せられました。相談の中には、学校の先生による人権侵害案件もありました。この対応としては、当法人の方で、法務局宛「人権侵犯被害申告書」を作成しました。また、弁護士の先生にも直接相談に対応してもらい、相談に来られた方には、安心感を提供できたのではないかと思います。

私も相談員として対応しました(テレビ放映されたということです。)が、特に学校のいじめ問題は、司法関係者に相談できる仕組みを構築する必要があると思いました。

NPO法人では、11月23日(金・祝)に、NPO法人全国いじめ被害者の会大沢秀明理事長をお招きしてくまもと県民交流館パレアにてシンポジウムを開催する予定です。関心のある方は、ぜひ、ご参加ください。

それでは、今月号もよろしくお願いします。

(代表社員 大島 隆広)

信託-主として民事信託について

今月号から3回にわたり、民事信託を中心として、信託制度をご紹介致します。今回は、信託の総論的な部分を扱います。

 

1 信託法の抜本的改正

信託法が平成18年に改正され、平成19年9月から施行されました。改正法の特徴は、「信託法新時代の到来」と称されるように、信託を多様な形で利用するというニーズに応えるために、新しい類型の信託(受益証券発行信託、限定責任信託、目的信託、自己信託等)が数多く創設されたことです。

 

2 そもそも信託とは何か?

(1)信託は従来、信託銀行や信託会社等が行う商事信託が中心でしたので、信託は一般的に馴染みの少ない制度と考えられてきた側面があります。

(2)ところで、現在の「信託」という考え方は、中世ヨーロッパに起源があるとされています。十字軍の兵士となった貴族等は、長期間、所有地を離れることになります。そのため、残った家族のために、所有地を信頼できる友人等に管理運営をさせて、そこから生じた収益を兵士の家族に渡してもらっていました。信頼関係を前提としていたのです。

(3)以上のような信託の起源からも分かりますように、「信託」とは、特定の者(受託者)が、財産を有する者(委託者)から移転された不動産や金融財産など(信託財産)につき、信託契約、委託者の遺言、または公正証書等に基づく自己信託(信託行為)により、一定の目的(信託目的)に従い、財産の管理または処分及びその他の当該目的達成のために必要な行為をすることをいいます(信託法2条1項)。

 

3 信託の当事者(信託関係人)について

信託に登場する当事者(信託関係人)としては、基本的には、1.委託者、2.受託者、3.受益者の3名がいます。それぞれの立場を理解することが基本となります。

第1に、委託者は、受託者と信託契約を締結するなどして、信託目的の設定及び信託財産を移転します。

第2に、受託者は、委託者より信託財産の移転を受けて、その名義人になります。そして、信託財産を管理・処分し、受益者に信託利益を給付します。受益者のために任務を遂行する信託の担い手です。

第3に、受益者は、受託者から信託行為に基づいて信託利益の給付を受ける権利等を有する者です。

 

4 信託のメリット

当事者である委託者、受託者、受益者には、信託制度を利用するについて、次のような固有のメリットがあります。

第1に、託者には、1.財産の保護、2.委託者死亡後の財産管理、3.税負担の軽減、4.委託者の意思尊重、5.事業承継などがあります。

第2に、受益者のメリットとして、1.財産運用に係る責任の限定、2.信託財産の隔離、3.報酬、費用の請求などがあります。

第3に、受益者のメリットとして、1.収益の確保、2.一定の税負担の軽減、3.受益権の譲渡などがあります。

 

5 期待される民事信託の活用

(1)民事信託と商事信託について
信託は、受託者が営利目的で継続反復して行うか否かにより、商事信託と民事信託に分類できます。

商事信託は、受託者が業として不特定多数の者を対象に引受ける信託です。この場合、受託者は信託法だけでなく、信託業法の厳格な規制(内閣総理大臣の免許、資本金規制、営業保証金の供託等)に服します。信託業とは、委託者から報酬を得て、信託の引受けを「営業」として行うことです。一般的に知られている信託銀行等(信託兼営金融機関)及び信託会社がこの信託業者に該当します。

 

一方、営利を目的とせず、継続反復のない民事信託では、信託法の適用を受けますが、原則として信託業法の適用は受けません。個人または中小企業の経営者の意図を実現するために、委託者と受託者間で独自の信託契約を締結し、様々なコストを抑えつつ、前記の様々な信託のメリットを活かすことができます。

 

(2)従来、信託は商事信託が中心でした。しかし、供託法の抜本的改正により、信託制度が市民に身近なものになり、民事信託の積極的な活用が期待されています。

 

次回は、この民事信託の活用事例をご紹介致します。

判例紹介

結婚紹介サービス会社により知り合った外国人女性との婚姻予約は認められなかった例

東京地方裁判所 平成21年6月29日 判決

Aさん(中国人女性) Bさん(日本人男性)
有限会社C(結婚相手紹介サービス会社) 代表取締役D

 

<事案の概要>

有限会社Cに会員登録したBさんと同社の紹介によって知り合ったAさんが、婚姻予約をするに至ったが、Bさんが婚姻予約を履行せず、又は、不当破棄したと主張して、AさんがBさんに対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として、220万円(慰謝料200万円、弁護士費用20万円)の支払を求めた事案である。

Bさんは、平成19年1月13日ころ、有限会社Cに会員登録し、入会金、1年間の登録料及び月会費等合計45万3,000円を支払った。

Bさんは、同年5月3日から5日にかけて、有限会社Cに15万7,500円を支払って、中国上海でのお見合いツアーに参加して、現地で数名の中国人女性とお見合いをした。

Bさんは、平成19年5月19日、Aさんと婚約することを決めた旨の記載がある「婚約誓約書」と題する書面に署名して指印を押し、同月26日有限会社Cに対し、結婚ツアー及び結婚式料として309万7,500円を支払った。

しかし、Bさんは6月16日に代表取締役Dに対して費用の返還を求め、同月28日の中国での結婚式を欠席した。

 

<裁判所の判断>

AさんとBさんは、Bさんがお見合いツアーに参加するため渡航した上海で初めて会い、約1日強の期間、同行して観光地に赴いたり、食事を共にしているにすぎず、帰国後も、テレビ電話を用いて短時間会話したというのであって、BさんがAさんに対して婚姻に関する具体的な話をしたことを認めるに足りる証拠はなく、真実夫婦としてAさんと共同生活を営む意思があったとは到底認められず、日本法の下で、婚姻予約が成立していたものと認めることはできない。

なお、Bさんは、誓約書に署名して指印を押し、有限会社Cに対し、結婚ツアー及び結婚式料として309万7,500円を支払っている。代表取締役Dからの要求があって誓約書への署名等行った態度は軽率といわざるを得ないものの、誓約書が有限会社Cの定型用紙であること、婚約誓約の相手方として記載されているAさんの生年月日が空欄で住所も上海としか記載されていないことといった内容体裁等を勘案すれば、誓約書を作成した事実や上記金員の支払の事実をもっても、婚姻予約が成立したものと認めるには足りない。

したがって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がないことに帰する。

 

<コメント>

民事上の紛争が生じた時に相手が外国人の場合などは、どこの国の法律を適用するのかが問題になることがあります。

この場合、「法の適用に関する通則法」という法律で、日本の法律を適用するのか否かの判断がなされます。

 

もっとも、今回の場合、裁判所はAさんの主張は認められず、法律を適用して損害賠償を認める必要がありませんでしたので、日本又は中国のどちらの国の法律を適用するかの判断はなされませんでした。

(抜粋)
法の適用に関する通則法第24条(婚姻の成立及び方式)
第二十四条婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
2 婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。
3 前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない。

司法書士日記

~当法人の司法書士が、趣味の話や最近の出来事など、ざっくばらんに書いていきます~

先日、山鹿市の重要文化財に指定されている八千代座へ「山鹿風情物語」の公演を観賞してきました。私自身初めて八千代座を訪れたのですが、色とりどりの天井広告・升席・桟敷・花道が一体となって荘厳さを感じると同時に、どことなく落ち着くことができる建物です。太鼓の大きな音で始まる公演は、山鹿太鼓の迫力ある演奏に会場はどんどん熱くなり、最後は「よへほ節」で会場全体がひとつになります。それに続き、優美で幻想的な山鹿灯篭踊りに目を奪われてしまい、あっという間に一時間の公演が終了しました。「動」の山鹿太鼓と「静」の山鹿灯篭踊り、山鹿が誇る二大芸能を秋の夜長に堪能することができました。

近くに住んでいると、ついつい忘れてしまいがちですが、熊本の文化や名所に接することの大切さを改めて感じました。

(清水事務所 司法書士 西本 清隆)

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寄り添う支援で笑顔ふたたび

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