法エールVol.31

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ご挨拶

最近は、老後の資金計画について不安を感じている人が、日本の金融商品だけでなく外国で扱っている金融商品に目を向け、国外で積立方式による資産形成に関する契約を締結することが多いと聞きました。これは、保険業法第186条により、日本に支店等を設けない外国保険業者は、日本で保険契約を締結してはならないとされているところ、日本で当該保険契約の締結をするには、内閣総理大臣の許可を受けなければならないと規制されており、国外で当該契約を締結すれば、この規制を回避でき、外国保険業者と契約することができるからだそうです。

国外で資産形成に取り組む人が増えたのは、日本の社会保障に対する不安感からではないでしょうか。すなわち、日本の公的年金制度は戦後、将来の自分のために積立をしていく方式(積立方式)でスタートしましたが、その後、現役世代が納めた保険料を原資として老齢年金受給世代に給付されるという賦課方式に事実上移行されました。そして、賦課方式のままだと、少子高齢化の進展に伴い、世代間格差が発生することになり、若い世代に負担をかけてしまうどころか、年金の受給額も目減りすることが想定されます。そこで、賦課方式による欠点を補うために、利回りのいい外国の金融商品を活用し、無理のない金額を長期にわたり積み立てていき、老後は複利の恩恵を受けた一定額を受領しようとされているのではないかと思います。しかし、利回りの良さは別として、この定額積立投資もコツコツ積み立てていくことについては、日本で行なうのと変わりはありません。資産形成を日本でするか外国でするのか。今になって、金融ビッグバンの影響が身近な所にまで迫ってきている感じがします。

それでは、今月号も宜しくお願いします。

(代表社員 大島 隆広)

任意後見契約等の活用

最近、一人暮らしの高齢者の方から、将来、自分が一人で生活できなくなった時は、お金のことやさまざまな手続きについてはどうしたらいいのか?誰にお願いしたらいいのか?等、将来についての不安の声をよく聞きます。

そこで、今回からは、将来のさまざまな手続きについて代わりに行ってもらう「任意後見契約」やそれに関連する制度について解説していきたいと思います。

【任意後見契約】

任意後見契約とは、加齢等により自分の判断能力が不十分な状況になった場合に備えて、将来、「支援してくれる人」と「支援してもらう内容」をあらかじめ契約によって決めておく制度です。

(事例)
花子さん(70歳)は、3年前に夫がなくなり、子供もいません。今はしっかりしており、自宅で一人で生活していますが、将来自分が認知症になったり、自分で判断することができなくなった時にはどうしたらいいのか不安を抱えて生活しています。花子さんは将来のさまざまな手続きについて、以前から知っている司法書士にお願いしたいと考えています。

このような場合、花子さんは将来の不安に備えて、任意後見契約を結んでおくことができます。

 

【Q1】誰と契約するの?

法律上、契約をするにあたって、法律上の制限はありません。一般的には、本人の親族または知人、司法書士や社会福祉士等の専門家がなることが多いようです。

したがって、花子さんは信頼する親族(甥、姪等)や、司法書士等の専門家と契約をすることができます。なお、この任意後見契約は、将来のことを決めておくものですので、場合によっては自分よりも年の差のある年上の方は避けた方がいいでしょう。

 

【Q2】どのような内容が決められるの?

法律上、「精神上の障害により判断能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護または財産の管理に関する事務の全部又は一部」と定められています。具体的に言うと、花子さんの預金の管理、不動産その他の重要な財産の処分(売却や賃貸借契約の締結等)、遺産分割等、財産に関する法律行為の他、施設入所契約やその他介護サービスの提供を受けるための必要な契約、医療契約の締結等、生活に関する法律行為も含まれます。

これらの法律行為の全部又はこれらの一部を、将来司法書士が代わりに(代理して)行うという内容を決めておくことができるのです。

なお、あくまでもこの契約で決められる内容は契約の締結等の「法律行為」に限られます。つまり、実際に介護(食事や入浴の世話等)をする訳ではありません。(ちなみに、これらの行為は「事実行為」と言われます。)したがって、花子さんに介護が必要になった場合には、司法書士が花子さんの代理人として介護サービス提供者と介護契約をし、花子さんがサービスを受けられる(ヘルパーに来てもらう等)手続きをすることになります。

 

【Q3】どうやって契約するの?

上記の内容が決まったら、その内容を「公正証書」で作成することが必要です。この「公正証書」は、契約の内容を公証人が作成します。公正証書作成のために、契約を締結しようとする人(花子さんと司法書士)が公証役場に行くか、病気等で行くことが難しいときは公証人に来てもらうこともできます。

費用は1契約につき、15,000円(手数料、登記嘱託手数料、収入印紙)と、証書の枚数や、旅費、日当がかかることがありますので、具体的な金額は公証役場に確認する必要があります。

なお、任意後見契約を締結したこととその内容が法務局で登記されます。

 

【Q4】契約がいつから効力が発生するの?

本人がしっかりしている間は、自分で財産の管理や一人での生活ができるので、契約の効力はまだ発生しません。しかし、本人の判断能力が衰えてきた時には、本人、配偶者、4親等内の親族(いとこ等)、任意後見受任者(将来の任意後見人)が家庭裁判所に「任意後見監督人」(任意後見人の活動をチェックする人)の選任を申し立て、任意後見監督人が選任されたときに契約の効力が発生します。つまり、任意後見監督人が選任されたときに、司法書士が花子さんの正式な代理人になるのです。今後、司法書士は、定期的にこの任意後見監督人に花子さんの代理人としての活動内容等を報告する必要があります。このようにして花子さんの大事な財産を守り、花子さんが望んだ契約内容を実現していくことができるのです。

 

今回は任意後見契約について説明しました。次回は任意後見契約に関連したその他の契約等について説明する予定です。

判例紹介

洗濯物を干そうとして2階から転落死した事故についての賃貸人の損害賠償請求について

福岡高等裁判所 平成19年3月20日

原告:Xら(被害者Aの夫Xおよび子ども)
被告:Y(アパートの所有者・賃貸人)

A(身長約157cm)は、洗濯物を干す時は、アパート2階の南東側の窓の外に取り付けてあった竿受け金具に物干し竿を渡し、その竿に干していた。Aは、平成14年11月6日、下の駐車スペースに転落し、急性硬膜下血腫により死亡した。窓は、床(畳)面から約73cmの位置に窓枠下部があり、手すりや柵(さく)等は設置されていなかった。竿受けは、窓の両脇の外壁に設置された蛇腹式(伸縮式)のもの(窓の外に洗濯物を干す際には、片方の窓ガラスを開け、蛇腹部分を移動させて竿受けを手前に引き寄せ、洗濯物を物干し竿に直接掛けるか、あるいは、物干し用品(ハンガー類等)に洗濯物を干し、これを物干し竿に掛けた後、蛇腹部分を移動させて竿受けを必要な位置まで伸ばすもの)で、竿を受ける位置が遠近2カ所に設けられており、事故時には既にさび付いて伸縮できない状態であり、外壁面から竿受けの先端までの距離は47cm、2階床面を基準とした竿受けの高さは、138.5cmである。

Xらは、窓に手すりがないことが建物の欠陥であると主張し、Yに対して、損害賠償を求めた。これに対し、Yは、本件建物は法規にのっとり、適法に建築されたものであり、賃借人より危険性の指摘があったこともなかったなどと反論した。

<判決の要旨>

竿受けの蛇腹部分がさび付いて本来の伸縮機能を失っていたことからすると、洗濯物を干すためには、手に洗濯物を持ったままの状態で、窓からある程度外に身を乗り出さなければならないことが考えられるのであって、万一身体のバランスを失ったような場合には、そのまま下に転落する危険性がなくはなかったものである。そうであれば、窓に手すりや柵等を設置して、転落防止に備えるべきであり、窓の腰高(床面からの高さ)に瑕疵(かし)がないからといって、十分な安全性を備えていたということにはならない。

しかし、窓の腰高自体は相当性の範囲内にあったこと、竿受けの蛇腹部分が有効に機能していれば、洗濯物を干す際にも、通常の注意を払えば転落することはないと考えられること、建物は、事故発生まで30年近く転落事故の発生がないこと、XらやAは2年以上生活を続けて
きたが、これまで竿受けの修理・調整をすることもなく、また、不具合や危険性を訴えなかったことなどの事情によるとAの過失も極めて大きく、90%の過失相殺をするのが相当である(損害合計4,827万余円のうち、482万余円と弁護士費用30万円を認めた)。

<解説>

これは、窓の腰高自体は瑕疵とはいえないけれども、窓の外に手すり等を設置して転落防止に備えるべきで、窓は十分な安全性を備えていなかったとして、アパート賃貸人の損害賠償責任を認めた事案です。普段から賃貸人、賃借人の交流が行われていたのであれば、防ぐ事が出来た可能性もあり、賃貸人も賃借人も互いにいい関係を築いていくことがやはり大事ですね。

司法書士日記

~当法人の司法書士が、趣味の話や最近の出来事など、ざっくばらんに書いていきます~

はじめまして、昨年度の司法書士試験に合格し、今年4月から当法人・清水事務所に勤務しております「村坂佳代子(ムラサカカヨコ)」と申します。

出身は福岡ですが、大学入学を契機に熊本に移り、早10年になります。現在、不動産鑑定士の夫と2歳になる娘との3人暮らしです。勤務し始めてから約3ヶ月、仕事と育児の両立に悪戦苦闘の毎日です。しかしながら、長く苦しかった受験生活を思うに、仕事を通じて社会との
繋がりを感じることができる「いま」には日々の充実を感じております。

今後とも皆様方の御指導・御鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

(清水事務所 司法書士 村坂 佳代子)

コラム

~小旅行~

先日、家族で九州新幹線「さくら」に乗って博多へ行ってきました。あっという間の乗車時間で、こんなに早く着くなら駅弁食べる時間は無いなという印象です。

博多駅ビルはものすごい商業施設になっており、福岡に行かないと無い商品が増え、熊本はとてもかなわないなと思うと同時に、天神みたいに歩き回る必要がないのでまた来てもいいかなと思いました。(娘はポケモンのぬいぐるみを買って喜んでます。)北九州で過ごした学生時代(もうかなり昔のことになってしまいましたが・・・)に比べたら発展の仕方が雲泥の差に感じます。買い物以外にも、空港・アクセスの良さ・スポーツ・演劇・アジアの玄関口等福岡にはたくさんの魅力があります。

ですが、熊本には熊本の良さがあり(熊本城・おいしい食材・水・緑・阿蘇・天草等)、なにより、とても暮らしやすく人の温かさも感じられる街だと思います。若い頃は閉鎖的な感じがとても嫌でしたが、今は熊本が好きです。熊本は熊本の良さを残しつつ、明るく元気な街として発展するように私たちが頑張らなければと感じました。

(薄場事務所 北里 佳紀)

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