法エールVol.18

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ご挨拶

日本の政治が迷走の上、また新しい内閣が発足しました。終焉を迎えた旧内閣のトップは、「普天間問題の失敗」と「政治とカネの問題」の露呈について、その責任をとる形での辞任となりました。特に、普天間問題では発言の軽さが指摘され、そのことが地元沖縄の人たちの反感と怒りにつながりました。

先人の言葉に、「古者(いにしえ)言(ことば)を之(こ)れ出(いだ)さざるは、躬(み)の逮(およ)ばざるを恥(は)ずればなり」というものがあります。これは、「昔の人々が、軽がるしく口に出さなかったのは、実行がなかなかともなわないことを恥じたからである。」という意味であり、また、ロシアの文豪トルストイは、「本当に言いたいことは声低くして語ってほしい。」と言ったそうです。

言動を一致させる難しさを肝に銘じ、政治の場面だけに限らず、言動不一致が招いた今回の結末から得た教訓を、私たちの日常生活の中にも活かしていきたいと思います。

それでは、今月号も宜しくお願いします。

(代表社員 大島 隆広)

賃貸借契約

これまで、賃貸借契約をテーマにした説明をしてきましたが、今回はいわゆる「敷引(しきびき)特約」について説明していきます。

賃貸借契約書に「明渡時には敷金30万円から20万円を差し引いた10万円を返還する」、あるいは「明渡時には家賃3ヵ月分の敷金のうち2ヵ月分を差し引いた1ヵ月分を返還する」と記載されていることがあります。このように賃貸借契約を行うに際し、契約終了時に敷金から無条件に一定金額を差し引くといった特約を「敷引特約」といいます。契約書に予め記載されており、これを了承して契約を締結したのであれば、一切敷金の返還を請求することはできないのでしょうか。

賃借人は使用対価として賃料を支払わなければなりませんし、故意や過失によって窓を割ったり、壁に穴をあけたような場合には、その損害を賠償しなければなりません。

敷金は賃借人が支払うべき賃料や損害賠償の支払いを担保するために賃貸人に交付するものなので、契約終了の際に、そういった費用があれば敷金から差し引いたうえで残金を返還し、なければ敷金全額を賃借人に返還するのが原則といえます。

そこで敷引特約の内容が、賃借人が本来負担すべき費用について敷金から差し引くものであるのか、賃借人が負担する義務のない費用までもを差し引くのかが問題になります。

一般に敷引特約には、当事者間で別段の定めがない限り、

  1. 賃貸借契約成立の謝礼
  2. 貸室の自然損耗の修繕費
  3. 更新料の免除の対価
  4. 契約終了後の空室賃料
  5. 賃料を低額にすることの代償

といった要素が渾然一体になったものと考えられています。

しかし、1.については賃貸借契約成立の際、賃借人のみに謝礼の支出を強いることは、賃借人に一方的な負担を負わせるものであり、正当な理由を見いだすことはできません。2.についても前号で説明したとおり、これらの費用は賃借人が負担する義務はありません。3.については、事実上、支払う義務のない更新料を賃借人に支払わせることになります。4.については、賃借人が空室の賃料を負担しなければならない根拠はありません。5.については、賃料が実際に近隣の同程度の物件と比べても低額に設定されていなければなりません。こう考えると敷引特約は賃借人が負担義務がない費用まで差し引くものであり、無効ではないかとも思えます。

しかし、判例は以上の理由に基づく敷引特約についても一定の合理性を認めており、賃貸期間や賃料並びに敷引額や割合を考慮して、それが暴利行為として公序良俗違反になるような場合においてのみ無効と判断しています。そこで敷引特約の無効を主張して敷金の返還を求めるとしたら、特約が暴利行為となるものかどうかの個別、具体的な検討が必要です。また、特約をもって無条件に高額の敷引きが定められているケース等は借主に一方的に不利な内容の特約であり、『消費者契約法』に違反しないか問題になります。

『消費者契約法』とは、事業者と消費者とでは、情報力や交渉力について大きな格差があるのが通常ですので、消費者に不利な状況の下で締結された契約を取り消したり、あるいは消費者の利益を不当に害する条項の全部または一部を無効とすることで消費者を保護する法律です。事業者と消費者間の契約について適用されますので、個人の住居用の賃貸借契約においては通常、賃貸人は事業者に該当し、賃借人は消費者に該当するので、消費者契約法の適用があります。しかし、事業をするために店舗を賃借したときには事業者間での賃貸借契約となり、消費者契約法の適用はありませんので注意が必要です。

敷引特約が消費者契約法に反していないかを検討すると、賃借人に支払義務のない費用までも敷金から無条件に差し引く内容であれば、消費者である賃借人に本来の義務を加重し、賃借人の利益を不当に害する条項と判断される可能性はあるでしょう。実際の裁判例を見てみると、敷引特約を無効とするもの、一部を無効とするもの、有効とするものと事案によって様々です。事案によって結論は異なってきますので、お近くの法律専門家へ相談されることをお勧めします。

(清水事務所)

判例紹介

賃貸借契約における通常損耗の原状回復

最高裁判所第二小法廷 平成17年12月16日 判決
平成16年(受)第1573号

事案の概要

Xは、Yから住宅を賃貸していたが、その契約を解除して住宅を明け渡した。YはXが差し入れていた敷金のうち、金30万2,547円は本件住宅の補修費用として、通常の使用に伴う損耗(以下「通常損耗」という。)についての補修費用を含めて返還していない。残りの金5万1,153円はXに返還された。Xは、未返還金30万2,547円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて上告した。

判決の要旨

賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。

解説

住宅を賃貸している場合、壁が日光で変色したり、家具で床に傷がついたりするものです。こういった通常の使用による損耗(キズ)の修理(原状回復)を賃貸人と賃借人どちらが負担するのか、という点が争われました。判決は、「通常の損耗に係る投下資本の減価の回収は・・・賃料の中に含ませて」いるとし、

  1. 通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されている
  2. 賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されている

などの事情がない限り、通常損耗の修理(原状回復)は賃貸人が負う、としています。前回賃貸借契約を説明した際一番最後にお伝えしましたが、原状回復はたいてい契約終了時に問題となります。そこで、契約する時点で賃貸人と賃借人どちらが負担するのかを明確にし、後々の紛争を防止することが重要です。

(薄場事務所)

コラム

「味覚オンチ」

まわりの人から、何度も味覚オンチと言われたことがあるけど、先日もまたやってしまった(泣)。

お客様の会社へ土地の登記事項証明書を届けたら、いつもの若い女性から麦茶を頂きました。私は、テーブルに置かれた麦茶を一口飲んで、「お~この麦茶に何か入れてあります?ハーブとか?」と女性に聞きましたらところ、「はぁ~??それは、麦茶ではなくアイスティーですよ(笑)。」

目の前でそのやりとりを聞いてた社長が、「麦茶とアイスティーの区別もつかんとや?アハハハ~」と、えらい笑われました。今後の教訓として美味しいなら「美味しい~」と言うだけにしとこうと思いました。それが無難かも?

(健軍事務所 橋本 律哉)

司法書士日記

~当法人の司法書士が、趣味の話や最近の出来事など、ざっくばらんに書いていきます~

「映画館」

先日、家でテレビをつけたところ、大学時代に映画館で観た映画がちょうど始まったので、懐かしいと思い、観ることにしました。内容はノーベル賞を受賞した数学者が統合失調症を克服していく話です。

映画を観ながら、そういえば最近映画館で映画を観ることがなくなったな~と思いました。最後に観たのは…3年前だったかな?

自宅の大画面テレビ(私のテレビは大画面ではないですが…)でゆっくり観るのもいいですが、映画館で迫力のある映像と音楽で映画を観たいな~と思う今日この頃でした。

(健軍事務所 司法書士 山﨑 順子)

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