法エールVol.106

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ご挨拶

先月久しぶりに論語を学んできました。

孔子は、古代中国時代の春秋時代に理想郷を求めた思想を展開し、より良い政治が行われ、民の暮らしが良くなるための取組みをしてきたとされている人ですが、生前は苦難が多かったようです。

そして、論語を指導していただいている講師の方から、50代になって、ようやく魯(国の名前)の司冦(現在の、裁判官のような役職)に就任した孔子が、就任して7日後に聞人(世に聞こえた名声の高い人)であり、魯の大夫(領地を持った貴族)である少正卯を、五悪というリーダーが持ってはいけない危険な思想・性格等をすべて持ちあわせていたというだけでなく、政を乱したとして死罪にしてしまい、3日間さらし首にしたという話がありました。

仁を重んじる(思いやりの心で人を大切にする)孔子がなぜそのようなことをしたのか?権力を握ると人は変わってしまうのか、人を死に至らせても、自分の志を貫こうとしたのか?と思いました。

そこで、持参していた六法全書を見てみると、刑法81条(外患誘致)に「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する」とありました。この外患誘致の刑罰は、死刑のみであり、日本の現行刑法典において、法定刑が死刑のみである規定は、他に存在しないとされています。国家の対外的な存立に重大な脅威を与える罪であることから、特に重く処罰されているということでしょう。また、外国との通謀がない場合でも、国の統治機構を破壊したり、統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、首謀者は、死刑又は無期禁錮に処すると内乱罪に関する規定がありました(刑法77条)。

ここでは、選択刑としての死刑がありますが、社会秩序が維持されるためには、まずもって国家がきちんと存立し機能していかなければならないということです。

そして、社会に多大な影響を与えていたであろう少正卯が、外国と通謀し、またそうでなくとも魯の国の転覆をはかろうとし、現在の刑法が規定している国家存亡に係る法益を2500年前の孔子が尊重していたとすれば、孔子が少正卯を死罪にしたというのも、あながち間違ってはいなかったのではないかと私なりに理解させていただきました。

10月22日は、衆議院選挙が行われます。日本の国益を護りながら、より良い政治が行われるための為政者が選出されることを期待したいと思います。
それでは、今月の法エールもよろしくお願いします。

(代表社員 大島 隆広)

信託

最近、信託を使った相続対策や事業承継対策の書籍・セミナーが増えています。

なぜ信託なのかというと、事案によっては、他の法律ではできない面があるからです。

例えば、後継ぎ遺贈型受益者連続信託(後でご説明します。)は、他の法律ではできないものですし、他にも信託でしかできないことがいくつかあります。
しかし、それは事案によってということで、すべての事案で信託が優れているとは限りません。
ご相談を受けると、信託は何でもできるんですよねと言う方がいらっしゃいますが、何でもできるわけではありません。
後見制度や遺言等を使ったほうがいい場合もあります。

今回は、事案を通して信託のメリットや他の制度との併用等についてご説明致します。

事案

A(75歳)は、妻B(72歳)、長男C(47歳)の三人家族です。

Aは公務員を退職し、現在はアパート経営で、生活は安定しています。Cは、生まれながらに障害があり、一人で生活することは難しい状況です。Aには、甥のD(45歳)がおり、Aの近くで生活していることもあり、A家族の面倒をよくみてくれています。Aは、Cのことが心配でなりません。Aは、Cが生涯豊かで不自由のない生活を送ることを望んでいます。また、Cが亡くなった後は、Dに財産を承継して欲しいと考えています。
どのような手続きをとればいいのでしょうか。

(本件では、Aの財産について細かく設定しておりません。今回は制度説明に重点をおいております。)

検討

上記の事案は、障害者のお子様がいるご家庭です。子供の面倒を将来誰に看てもらうかということは、悩ましい問題です。さらに、将来Cが亡くなったときに両親がすでに亡くなっていれば、相続人がいないということも問題となってきます。

本件では、Cの財産管理と身上監護を誰にしてもらうのか、そしてCが亡くなった後の財産をどうやってDに承継させるのかを考える必要があります。

まず、Cが亡くなった後にDに財産を承継する方法を検討します。遺言の場合、Aが遺言で、Cにまず相続させ、Cが亡くなったらDに遺贈するという定めはできません。そのような定めができるのは、信託のみです。

そのため、信託にて、A死亡後はCへ承継させて、C死亡後はDへ承継させるという内容の契約をします(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)。

次に、財産管理と身上監護ですが、これは任意後見または成年後見を利用することとなります。

まとめ

信託と後見制度との併用は、これから増えてくるのではないかと思います。信託でいくらの財産を預けるか等、後見との兼ね合いで、実際は検討しなければならないことはいろいろとありますが、事案によって決めていく必要があります。

判例紹介

学習塾のクーリング・オフ

東京地裁 平成26年11月21日 判決

事案の概要

X(中学3年生のAの母親)は、学習塾を経営するYとの間で、2013年3月5日に、4月から中学3年生になる娘Aに高校進学のための授業を受けさせることを内容とする契約を締結し、5月14日に、入会金・授業料・教材費・教室等施設利用費として、合計約77万円を支払った。

Aは同年4月から8月までYで授業を受けたが、その後、同年10月16日にXはYに対して、契約内容を明らかにする書面の交付を受けていないことから、特定商取引に関する法律(以下、「特商法」という。)48条1項に基づいて本件契約をクーリング・オフする旨の書面を送り、21日にYに到達した。YはXに対して約24万円を返還したが、残りの約53万円は返還しなかった。そこでXは、契約内容を明らかにする書面を受け取っていないからクーリング・オフ期間は進行していないとして、全額の返還を求め本件訴訟を提起した。

一方でYは、「入会のしおり」を交付し塾の指導方針・授業料の支払方法・退会の規定等を説明したうえで契約していること、Aは4月から8月までクレームを述べることなくYで授業を受けていることから、クーリング・オフにより授業料全額の返還を求める行為は信義則違反または権利の濫用に当たり許されないと主張して争った。

裁判所の判断

本件契約は、特商法41条1項にいう「特定継続的役務提供契約」に当たると認められる。したがって、Yは本件契約を締結したときは、遅滞なく、クーリング・オフ、中途解約権等の権利の内容を含め、本件契約の内容を明らかにする書面をXに交付しなければならない。Xはこの書面を受領した日から8日を経過するまでは、無条件で本件契約の解除(クーリング・オフ)をして、Yが本件契約に基づいて受領した全額の返還を求めることができる。

なお、「入会のしおり」には、「中途退会でのご返金は致しかねます」との記載があり、クーリング・オフや中途解約権の行使をすることができないとの誤解を与える内容となっているから、契約の内容を明らかにする書面の交付があったと認めることはできない。

特商法は、消費者が契約の内容を十分に理解しないまま契約をするおそれのある一定の契約類型について、事業者に対して書面交付義務を課すことにより、契約内容及び契約締結過程の適正を確保している。それとともに、消費者にクーリング・オフ等の権利を付与することにより、契約内容を冷静に検討し、契約を維持するか熟慮する機会を与えている。事業者の書面交付義務が遵守されない間は、消費者の無条件での契約解除を可能とし、契約解除があった場合には、既に契約に基づき役務提供が行われた場合であってもその対価の支払いを求めることはできないものとしている。このことを考慮すると、Yの主張のような事情があることをもって、Xの請求が信義則違反又は権利の濫用に当たるということはできない。

コメント

特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。今回の学習塾やエステサロンなどの契約は「特定継続的役務提供契約」と言われ、業者からの適法な書面の交付がなければ、途中までサービスを受けていたとしても、クーリング・オフでき、代金の全額の返還を求めることができます。

しかし、無用なトラブルを避けるためにも、本当に必要な契約かを速やかに判断し、互いに冷静な対処をしていくことが大切でしょう。

司法書士日記

先日、民事信託士という民間の資格を受験してきました。最近、相続や事業承継のご相談を受ける際に、信託を選択するケースが増えてきているのですが、信託は最近普及してきたものなので、まだまだ制度としては不透明な部分がたくさんあります。民事信託士は、弁護士と司法書士しか取れない資格で、これからの信託制度を担っていこうという志のある方が取得されるものだということです。合格発表は年末ということなので、受かっていればいいのですが、これからますます信託を活用して皆様方のお役に立てればと思います。

(薄場事務所 司法書士 井上 勉)

コラム

落語フェス

秋が近づくと楽しみにしている事の一つに、今年で11年目を迎える「博多・天神落語まつり」があります。福岡・天神周辺のメイン会場に、東西の人気落語家が60名以上一挙に集合する日本最大落語フェスです。

人気のチケットは入手困難で、各ホールは若い方も大勢の大盛況の四日間です。その間、他の地域からは「落語の神無月」と呼ばれているとか・・・・・。

ビギナーの私ですらストーリーが大体分かれば、登場人物たちの人情がすごく魅力的に感じたり、世渡りする為のノウハウが隠されている気がしたり・・・・・楽しさは無限大です。噺家さんの素晴らしい話芸と扇子と手ぬぐいの小道具で、毎回存分に楽しませてもらえます。落語入門は思っているよりはるかに難しくないのです。

思い切り想像を膨らませて大笑いしたい時には、是非オススメです。

今秋もまた人気のチケットが手に入りました。極上の笑いの『落語フェス』を堪能するつもりです

(健軍事務所 春本 祐子)

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